1.Let't Go to the "Nezummy Land" part3-2

 
  
    
 ステージ上では第2種目めの『カルトクイズ』が始まっていた。  この間、3種目の参加者は、それぞれのわんちゃんと自由に過ごして、親睦を深める。淳はコロちゃんを『抱いて』嬉しそうに戻ってきた。とろけそうな笑顔になっている。 「でっは、行きまああっす!ねずみーカルトクイズーでっす!」 『第一問です』  アシスタントのお姉さんが問題を読み上げる。   『わがねずみーらんどが誇る人気キャラクターと言えば、Pitchyですね♪では、そのPitchyの中に入っているのは誰でしょう♪』  会場が、目に見えてざわついた。 「へー手引書ってそんなのも載ってるんだ。知らなかった。」  感心する金花に、珍しくかごめが解説を入れる。  よっぽど電波の入り具合が悪いのか…。 「載ってないって。ねずみーらんどでは、滅多に中身の事は言わないはずなのよ。」 「ふーん。…じゃあ、柚ちゃんには有利ね。アイツ、そういう極秘情報とか集めるの、大好きだから。」  金花の声にこたえるように、ステージ上のボタンがカチッと鳴った。 『ハイ、柚莉さんどうぞ♪!』 「えーっと、第1・第3・第5週は加藤まことさんで、第2・第4週は田中ゆうきさん!あ、今日は祝日だから、前川のぶおさんかな。みんな元気にしてるかなあ?」 ピンポンピンポーン♪ 『ハーイ大正解♪涼瀬柚莉さんに一点で〜す♪続いて第2問♪Pippyのお母さんの誕生日はいつでしょう?』  その間淳は、ちょこんとお座りした『コロちゃん』と視線をあわせるべく、這いつくばって話しかけていた。 「かわいーでちゅねー、こわくないでちゅよー」  『コロちゃん』はきょとんとした顔で、黒目がちのうるうるした目で淳を見ている。 「ううううっ、かっ、かわいいぞっ、このやろー!」  なんか、逆に仔犬にしっかり魅了されている気がする。…ちょっと情けない。  ステージ上ではまた柚莉が答えている。 「7月の25日!」  ピンポンピンポーン♪ 『はーい、またしても大せいか〜い♪』  淳は相変わらず、『コロちゃん』にデレデレ状態。目を細めて、何か話しかけながら、時々頭を撫でたり、耳の後ろを掻いてやったりしている。 「淳、目的忘れてない?」  由利香の言葉に、はっとわれに返る。 「い…いけねっ、つい」  体を起こして、今度は地面にあぐらをかいて座り込む。さて、どうしようかと考えていると、コロちゃんはちょっと小首を傾げ、2,3回尻尾を振ってトコトコと歩いてきたかと思うと、淳の膝にちょこんと乗ってきた。ぺろぺろと淳の手をなめ、ころんと丸まると、眠ってしまう。 「…………っ!ユ…ユカ、どっどうしようっ、この子っ」 「とりあえず、動けないねぇ」  由利香はため息をつく。  柚莉は調子が出てきたのか、素早く的確に、1問1問正解していく。 『PitchyとPippyが初めてデートしたのは?』 「1987年、5月10日!」 『二人きりの時、PitchyはPippyをなんて呼んでいる?』 「『愛しのピピィ☆』!」 『Pitchyの好きなアイスクリームの種類は何?』 「ちょこれーとまかでみあスペシャル!」  声の高めな柚莉が鋭い口調で答えていくのは、ちょっと圧巻だ。おかげで他の人たちは一瞬圧倒されて、誰も柚莉の他に答える人はいない。  これもやっぱり、金花に喜んでもらうため…なのか? 「柚ちゃんやるなあ。何でこんなにいっぱい覚えてられるんだろ。」  当人には、理解されてないようだけれど。 「淳、仔犬ずっと、寝かしておいていいの?」 「しょうがねーじゃん。寝てるもん、起こせねえ」  『コロちゃん』はくーくーと穏やかな寝息を立てて眠っている。最初丸まっていたのが、よほど気持ちが良いのか、仰向けに万歳した格好になっている。息をする度に、まん丸のお腹がゆっくり上下しているのが愛らしい。時々ピクッピクッとケイレンしたように手足が動くのが、熟睡している証拠だ。 「それは…起こせないねえ。淳の膝…寝心地いいんだよね」 「え?なんだ、それ?」  淳は怪訝そうに由利香を見る。  「なんでもなーい。ゆーちゃんすごーい、全問正解だよ」 『ねずみーらんどで一番人気の無いアトラクションは?』 「『トムおじさんの愉快な銀行強盗』!」  またしても、軽快に答えた。ほぼ間髪入れずだ。 「あ、起きた」  『コロちゃん』は手足を思いっきり、う〜んと突っ張って、コテンと横に転がってから、目を開けた。きょときょとと回りを見回し、淳と目が合うと、体を伸ばして淳の頬をぺろぺろなめた。 「…どーしよう。おれこいつと離れられなくなったら」 「淳てばぁ、しっかりしなよ」 「しっかり…。し…してるって。うううっ、コロちゃん、かわいいっ」  『コロちゃん』をぎゅっと抱きしめる。  由利香は複雑な表情でそれを見ている。二人を見比べながら犬夜叉が 「ユカ、嫉妬してんじゃねえか」 「なッ何言ってんのよ!かごめちゃん、お願いっ!」  かごめは、やっと入るようになった携帯から目をはずさないまま、ほとんど反射的に無感情な口調で『おすわり』と口にした。 「ぎゃ」   またも犬夜叉は地面に叩きつけられる。完全にとばっちりだ。  その間もクイズは続く。  『ねずみーしーで一番背が高いのは誰で、何センチ?』 「トイレ掃除の高橋リックさん!2メートル43センチ!」 「あ、柚ちゃんより4尺近く高い」  金花がぼそっと呟く。…なんか一瞬、柚莉が反応したような気がする。  でも、それは一瞬で、柚莉はすぐ問題のほうに意識を戻したようだ。 『では、最後の問題でーす♪ねずみーらんどの中で一番低いのは?』 「野村ひろしさん、144センチ!」  それでも柚莉よりは、大きいらしい。  ピンポンピンポーンピンポーン♪ 『素晴らしい〜!お見事〜!全問正解です!ねずみーらんどの裏社会についてよくご存知のあなたには、「超ファスト パス」が贈られま〜す♪♪おめでとう〜♪』  お姉さんが差し出したパスを嬉しそうに受け取って、一つお辞儀をすると、柚莉は急いでステージを降りてきた。 「やったー!コノ、見てた?全問正解だよ!」  他の人には目もくれず、柚莉は金花の元に駆け寄った。しかし、競技が終わったからなのか、金花はもう『コロちゃん』のほうしか見ていない。 「コロちゃんかわいー、淳ちゃん、私にも触らしてー。」 「だめっ!」 「えー、何でよ。ケチ。」 「へーんだ、ケチとか、しぶちんとか、守銭奴とか言われたってぜっんぜんへーきだもんねっ!コロちゃんとおれの愛は誰にも邪魔させねえからなっ!」  その時、柚莉がいきなり、ポケットからパチンコを出し、淳に向けて放った。  淳はとっさに柚莉に背を向けて、コロちゃんをかばった。淳の背中の真ん中にパチンコでとばされた、そのへんの小石が当たる。 「ってえーな。何すんだよ、てっめー」  柚莉は淳の言葉など聞いてないように、キッと金花のほうを睨んで詰め寄った。 「コノ!ぼくが一生懸命クイズを解いてたっていうのに、何じゅんと楽しげに話してるの!?大体いつ、コノとじゅんの間に愛が!?」 「…は?何言って…」 「惚けないでっ!さっき言ってたじゃん、「コノちゃんとおれの間の愛が」どーのこーの!」  金花は一瞬?という顔になるが、合点がいったらしく、手をポン、と叩いた。 「…ああ、それは聞き違いだよ、柚ちゃん。淳ちゃんが言ったのは、「コロちゃんとおれの愛は邪魔させない」よ。つまりアンタの聞き間違いよ。」 「え…ころ(・・)?」 「この子。」  金花は淳にだっこされている、『コロちゃん』を指した。 「あ、なーんだ。仔犬のことだったのかあ。じゅん、ごっめーん。ぼくの早とちりだったー。」 「あほか、金花との間に、愛なんてあるわけねーじゃん。コロちゃーん、こわかったでちゅねー」 「…『金花』?」 「ああああっ、うっるせーっ、いちいち。コノちゃん、コノちゃん、コノちゃん、コノちゃん。これでいーかよ!」 「うん、おっけー♪」 「細かいオトコは嫌われるぞ」  男と女で差別しちゃいけないって、いつも言ってるくせに。 「!?き…嫌われる!?コノ、細かいのって嫌い?」 「えー、あんまり細かすぎるのは嫌…かな?」  がーん、がーん…  柚莉はショックを受けたようで、ブツブツ言いながらその場にしゃがみこんでしまった。 「ではいよいよ第3種目、『魅力』の競技でっす!参加者はステージにお上がりくださいっい!」  結局一度も走る練習はしないまま、第3種目のテストの時間になってしまった。ほかの参加者はみんな、わんちゃんをちょっとずつ遠くに置いて呼ぶ練習とか、いっしょに走ったりしているけど、…いいのか?  「んじゃ、行って来る」  そんなことは気にした様子も無く、淳は『コロちゃん』を大切そうに抱っこしたまま、地面から立ち上がる。   第3種目の参加者は7,8人。 「じゃ、皆さんの仔犬をアシスタントさんにお渡しくださっい」  アシスタントのお姉さんが仔犬を集めて回る。 「ああっ、コロちゃんがああっ」  淳が悲痛な叫びを上げる。 「…。」  まだショックからたち直りきっていない柚莉が、呆れ顔で淳を見ている。由利香もあ〜あとため息をついた。   ステージにコースがセットされ、ゲートの中に各仔犬が入れられた。  落ち着き無くうろうろする犬、きゃんきゃんうるさく騒ぐ犬、ゲートから出ようとぴょんぴょんジャンプする犬。『コロちゃん』はおとなしくお座りして、こっちを見ている。 「コロちゃん…なんていい子なんだ…」  淳は感動のあまり、ほとんど涙ぐまんばかりになっている。みんな必死に自分の仔犬によびかけていると言うのに。  やがてゲートが開き、レースがスタートした。  すぐに飛び出してくる犬。座り込んで動かない犬。意味も無くクルクル回る犬。  『コロちゃん』は地面の匂いをクンクンかいで、不思議そうな顔をした。  みんなが、手を叩いたり、大声を上げて仔犬を引き寄せようとしている中で、淳はじっと黙り込んで、コロちゃんを見つめていた。 『おいで、おいで』 と、心の中で呼びかける。何度も何度も繰り返して。 『ずっとおとなしく、付き合ってくれてありがとう。もう一回だけ、ちょっとだけ、付き合って』  一番前をとことこ歩いていた、プードルの仔犬があと1メートルくらいでゴールしかけたその時、奇跡が起きた。  それまで淳の顔をじっと見ていただけだったコロちゃんが、何かを決心したような、キリっとした表情になった。いきなり猛ダッシュして、コースを一気に走りきり、淳の胸に飛び込む。 「す…すごい…」   少々呆れ気味だった由利香は思わず感動の声を上げた。 「やっぱ、淳ってハンパじゃないや」 「淳ちゃんのふぇろもんって凄いんだね。」  ところでふぇろもんって何だろう…と思いながら、金花も同意する。 「す…すごい、逆転です!ぎりぎり逆転で、優勝は水木淳さんでっす!では、賞品の、超ファストパスをどうっぞ!」 「え?コロちゃんくれるんじゃなかったっけ?」  完全に、目的見失ってる。  おまえは目的指向型じゃなかったのか? 「い…いえ、これは飼い主様からお借りしたものですっし!さしあげるわけにっは!」  パスを受け取り、すっかり脱力したように戻ってくる淳に 「大丈夫かおまえ」  と犬夜叉が声をかける 「うっうっコロちゃん…」 「泣いてるぞこいつ」 「ほっといても、大丈夫だよ。多分すぐ立ち直るから。結構よく涙ぐんだりするし」  由利香は、いかにも、いつもの事(なのか?)といった様子で相手にしない。 「意外につめてえな」 急に淳は、はっとしたように顔をあげ、あたりを見回した。 何かを見つけ、無言で走っていってしまう。  みんなが唖然と見守っていると、淳は『コロちゃん』を抱っこした、若い女の子に声をかけている 「この仔のご主人?」 「あ、はい」  女の子は瞬間移動かと思われるほど、素早く移動してきた淳を見て目を丸くしている 「メルアド教えてっ!」 「え?」  女の子は、更にびっくりした顔になり、耳まで真っ赤になった。 「おい、あいつナンパしてるぞ、いいのかユカ?」 「違うと思うよ。淳、そーゆーのしないもん、あんまり」 「そっ、そうなのか」  やがて、上機嫌で戻ってくる。 「時々コロちゃんの写真送ってもらう約束してきた ♪ 」  いつの間にか、携帯の待ち受けもコロちゃんになってるし。  由利香がさっきの女の子の方を見ながら 「淳、今のお姉さん、こっち見てるよ。勘違いしてるかもよ」  飼っている犬をネタに、ナンパするのは良くあることだ。 「お姉さん?」  淳は首を傾げる。 「オンナだった?飼い主って」  コロちゃんしか目に入ってなかったらしい。 「ひっどおおおい!」 「ひっでえ!」  全員から非難の声が上がった。  淳は何を気にしているのか、全くわからないと言った表情で 「どーでもいいじゃん、そんなの。」  と言う。そして、すっかり元気になった顔で 「さーてっ!全員分のパスも手に入れたし、行くか〜っ!」  と叫ぶ。  その時、一行の目の前に、この大会を紹介してくれた、怪しげなおじさんが現れた。運の悪いヤツ。 「あ、おじちゃん。丁度いいところに。」 「な…な…なんですか…」  明らかにびくびくした様子で男は金花を見る。腰が引けて、何か文句を言われたらすぐ逃げようという体勢だ。 「犬、逃げねえように押さえ込んどけよそいつ」  淳の言葉に、犬夜叉が男を後ろから羽交い絞めにする。いや…そこまでやらなくていいんだけどね  やってしまってから、 「自分でやれよ」  と文句を言う。 「やだ。そんなの触ったら、コロちゃんの匂いが消えちまう」 「そ…そんなのって、ヒドイですよぉぉぉ。わたしのおかげでパスが手に入ったんじゃないですかぁぁ」  そう言えばそうかも知れない。  …が、そんな泣き言に耳を貸さず、金花が追い討ちをかける。  「ねーねー、3人とも、圧倒的な差で優勝したんだからさあ。なんか副賞とかくれないわけー?」 「そ…そんな、むちゃくちゃなぁぁぁっ!」 「何ぃ!?どこが無茶苦茶だっていうのよ!何か労働をしたら、それに見返りがくるのが正当ってモンでしょ!?」 「えええええっ!」 「それもそうだよな、おれたちのお陰で盛り上がったようなもんだし」  淳も言い出すが、本人はコロちゃんと遊んでいただけで、別に場を盛り上げてはいない。 「うっうっうっ、もーやだこんな仕事。課長に言って職場変えてもらうんだ。少しくらい手当てが付くからって…ああっ、でも手当てが出ないと、子供のミルク代が、おしめ代がああああっ。かーちゃんに怒られるぅっ」  とうとう泣き出した。そんな小さな子がいるのか。見かけより若かったらしい。 「あんたも、苦労してんだな」  淳がポンポンと肩を叩く。 「うっ。あっ、ありがとうございますうう」 「でも、それとこれとは別だよな」 「やっぱり…」  がっくりと肩を落とす。 「…じゃ、これで手を打ってくださいよう。うっ、うっ」  男は内ポケットから、ねずみー共通お買い物券1万円分を取り出した。 「ケチくせー。もっと持ってんじゃねえのか?犬しっかり押さえとけ。」  淳は男の体をあちこちさぐって、あらゆるポケットというポケットをひっくり返した 「なんか、おまえがやると、やーらしいな」 「わーっわーっやめてくださいよー。わーっそこはーだめですってばー」  どこ触ってんだ。 「うるせー。あーっ、くっそーコロちゃんの匂いがっ」  腹立ち紛れに男の頭をポカと叩く。 「ひどいですぅぅぅ」 「淳、ちょっとそれは可哀相だよ」 「そっかあ?だって、こいつ、こんなに隠してたぜ」  全部で5万円分ちょっと。それって恐喝とか、窃盗とか言わないか? 「それは必要なんですううう。わたしの今月分と、来月分と、さ来月分の、お昼と夜ご飯代なんですよおおお。それがないと食事がああ」 「飯なんて食わなくても死なねえよ」  嘘だ。確実に衰弱して死ぬぞ。 「そんな事言っていいのかな〜?この大会のことを公にされたらまずいんでしょ。あなたが招きいれた客のせいで収拾が付かなくなったら、確実にあなたのせいにされるよね?よーく考えてみなさい。今ここで5万ぽっちなくすか、職を失ったり、格下げになるのがいいか。それでもダメっつうんなら、こっちには実力行使っていう手もあるのよ。穏便にことを済まそうとしてあげてるんだから、いうこと聞きなさい!」  金花は犯罪すれすれ…いや、思いっきり犯罪な言葉を、さも当然のように堂々と吐く。一体こんな脅し方、誰から習ったんだ…恋愛には知識がないくせに。  その本気の目を見て観念したのか、男は言った。 「うっうっ。わっわかりました。しょうがないから…いや喜んで、奪われ…差し上げますう」 「わーいばんざーい。やっぱりコノってすごいー!」  柚莉は、ニヤリと笑いながら金勘定している金花の横で、純粋に喜んでいる。  まあ、ある意味すごいけど。 「犬、もう放していいぜ」  犬夜叉が羽交い絞めを解くと、男はその場に崩れ落ちた 「なんか、かわいそ。おじさんこれあげる」  由利香がバッグの中から、チョコレートを一枚出してわたした。  さっき一回落としてて、捨てようかと思ってたけど、こんな役に立ち方もあったんだなあ。包み紙のままだったから、きっと大丈夫だよね。良かった良かった。チョコレートもただ捨てられないで、喜んでいるよ。 「あ、ありがとうございますぅぅ。天使にみえますぅぅぅっ」 「よけーなこと言うんじゃねえよっ!」  なぜまた淳に殴られたかは、きっと男には永遠に分からない。  「ねー、『じゅんじゅん』。お腹すいたからおごってよー。」  柚莉は淳の服の裾を、ぐいぐいと引っ張る。時計を見ればもう2時半。確かに、空腹になってもおかしくない頃だ。 「そーよそーよ!元はと言えば、淳ちゃんが並ぶの嫌とかいったせいよ!」  うまくいけばオゴリ、という考えが頭をかすめたのか、金花も同調する。 「おれ、財布持ってねーもん、っつうーか、なんだよ、その呼び方。いろんな名前つかうなよ」 「えー、いいじゃん『じゅんじゅん』って。かわいーじゃん。」 「じゃ、おまえは、おれがかわいいと思うのか?」 「うーん…見る人によるよね。」 「おまえに言われたかねえな」 「あのさ、淳はお財布持ってないのはホントだけど、お金は持ってるからね」  由利香が口を出す。 「えっ、そーなんだ?ダメじゃん淳ちゃん。金は大事なんだよ!きちんと管理しておかないと!」  言いながらも金花は、さっそくねずみーらんどガイドの「料理屋」の項目を読み始めた。すでに、おごってもらう気まんまんだ。 「それに、そのけーたい、10万まで入るお財布けーたいだし、カードも持ってるよねえ」 「ユカっ、なんか恨みでもあんのかよ」 「え?べっつにー」  由利香はそっぽを向く。 「第一さ、さっきもらった買い物券あるじゃねえか。あれ使おうぜ、あれ」 「ダメ。あれは、万一のときにとっておくの。」  金花が強硬に言う。 「万一ってなんだよ、万一って。あーもうなんかめんどくせー。おごるっ!もうどーでもいいっ!」 「やったー、淳ちゃんありがとっ。」 「わーいタダタダ〜。じゅんじゅんのオゴリだー!」 「一人1000円までっ!」 「えー、じゅんじゅんのケチー。」  柚莉は不満げな顔をした。  呼び方は『じゅんじゅん』で固定なのか? 「そのさー、じゅんじゅんっつうの、すっげーやなんだけど。なんか鳥肌立つし」 「じゅんじゅんがコノのこと『金花』って呼ぶの、やめてくれたらいいよ。」 「呼んでねーじゃん」 「うそつけええええっ!よく呼んでるじゃん!」 「どうでもいいからさあ、飯食いに行こうぜ」  犬夜叉が待ちきれなくなって口を出してきた。 「かごめも腹減っただろ」 「え?あたしはそうでもないけど。」  かごめはある意味、お腹いっぱいだ。 「そっかあ?」  いつの間にか、金花と由利香は勝手に店を決め、歩いていってしまっている。和食の店『ねずみい』だ。ここって高いので有名だ。多分ランチでもお一人様2500円は下らない。そして、今はもう2時過ぎ。多分ランチタイムは終わっている。どうなる淳の経済状況。 

 そのころかごめ宅別棟。  クリスマスツリーの飾りつけも終わり、ちゃんとお昼ご飯も食べ終わって、勘太郎と春華は縁側で二人で日向ぼっこをしている。肩を寄せ合って庭を見つめる二人に、さんさんと日差しが降り注ぐ。 「暖かいねえ、ハルカ」 「そうだな、いい日だな」  春華は宝物のビー玉を陽の光に透かして見ている。 「あーん、ハルカぁ。そんなもん見てちゃ、いやだぁ。こっち見て」  勘太郎は春華の顔を両手ではさんで、自分の方に向かせた。ビー玉がポロっと落ちる。 「こら、勘太郎何すんだ」 「だって、ハルカがぁ」 「コドモじゃねえんだから、拗ねんじゃねえ。甘ったれた声出しやがって」 「ボク、こどもでいいよ。だからさあ」 「なんだよ」 「甘えさせて」  コロンと春華のひざの上に頭を乗せて、横になる 「ハルカの膝枕、気持ちいいー」  「寝るなよ、重てぇんだから」 「う〜ん。聞こえないよぉだ」  やがて、すーすーと規則正しい寝息が聞こえてくる 「しょうがねえか、ゆうべも遅くまで、原稿書いてたもんな」  春華はつぶやくと、優しく、柔らかな銀色の髪を撫でた 「すこし、休め」  ゆっくりと身をかがめると、勘太郎の髪に口付ける。  お日様がにっこりと笑った気がした。