第4話 はじめての戦いその2
「むースプーンもらったー」 割ぽう着を着て、手にはスプーン。これで三角巾でもかぶったら、完全に給食のおばさんだ。でも、みやは、猫なんだけど、確かに猫なんだけど、そういうかっこうが妙に似合う。 「くぬぬ、いーなー」 くぬぎは、うらやましそう言った。さすがに自分にはあまり似合わないと思うらしく、いつものようにみやぱぱがとった、とは言わない。えらいぞ、くぬぎ。進歩したね。 そんなこんなで、三人は進む。 普通のプリリンはかなり弱くって、まなとくぬぎが一回ずつ攻撃したら、すぐにめげてしまった。 個体差もあるのかもしれない。多少根性のある子もいるかもね。 チョコプリリンも似たようなもの。今回は先に攻撃したので、毒にもやられなくてすんだ。 「あんた、この前くぬぎを毒にしたでしょっ」 まなはチョコプリリンにせめ寄った。 「えーん、それはチョコプリリン1号でしょー。ボクは8号だから知らないよー。 それにさ、好きで毒にするわけじゃないもん。いじめられそうになった時だけだもん。えーん」 「くーちゃんは、たべるだけだよ、ぷりんをね。えーんえーん。いじめてなんかないよぉ」 「えーん、そーゆーのをいじめるっていうんだよー」 「えーん、くーちゃんに、たべるのだめっていったー。みやぱぱのばかー」 やっぱり、あんまり進歩していない。 なにはともあれ、泣き顔(ちょっと、頭の上のチョコレートソースが流れ出し気味)のままチョコ プリリンの記念写真をとって、名刺ももらった。 とにかくプリリンは、いっぱいいる。10歩歩くとプリリンに当るって感じだ。 同じ種類のプリリンどうしは何かの形で連絡をとりあっているみたい。だって、いかにも 「あ、知ってるヒト」 みたいにニコニコしてくる子もいたからね。 どうやってニコニコしているかはわからないけど、確かにニコニコしてるんだ。 三色のプリリンのほかに、だいだい色のプリリンもいた。 この時はまなが、みやにファイアーしたりして、大変だった。 あとで名刺をもらったら、『4 オレンジプリリン1:プリリンのなかま。HP12。相手を混乱させることがある。』と書いてあった。 それから、むらさきのもいた。このときは、なかなか倒れなかったけれど、特に何も起きなかった。名刺には『5 グレーププリリン1:プリリンのなかま。HP15。相手を魅了させることがある。』って書いてあった。 「みりょう?みりょうってなんだろう」 まなは首をかしげた。あんまり聞かない言葉だ。 「くーちゃんはおもうよ、びよ−んのなかまってね。みりょー、びよーんってにてるでしょっ」 「んー、確かにちょびっと似てるけど、ま、いっかー何もおきなかったんだし。」 いいの?名刺には『させることがある』って書いてあるんだよ。ってことは何か起きることもあるんじゃぁ… でも当人たちが気にしないんじゃ仕方ない。
「むーおなかすいたー」 みやはスプーン片手に、プリリン達を横目で見る。 まなは地図と、今いる位置を確認しながら、 「みや、もう名刺もらったんだから、わざわざ攻撃しちゃだめだよ。せっかく平和にくらしてるんだからさ。それにほら、もうすぐ森の出口だよ。わりと簡単だったねー」 「むー、だってぇ、おなかさんがぐぅーって」 「お腹さんはね、歌を歌っているのよっ、きっと」 まなは、いい加減なことを言う。 「くーちゃんもうたうよっ、おうたをねっ。 くーちゃんはねー、かつおがだいすき、ほんとだよぉー だけどちっちゃいから、かつおをはんぶんしか、たべられないのー」 「むー、くーちゃんかわいそう」 全然かわいそうじゃない。 「かつお半分ってすごく大きいよくぬぎ。くぬぎより大きいかも」 「むー、みやよりも?」 「そうだねー」 「じゃ、このプリンより?」 「そりゃプリンよりかつおの方が……げげっ」 おしゃべりに夢中で気がつかなかった。 目の前に、ものすごく、大きなプリンがあった。 まなの身長(約145cm)と同じくらいある。ところどころ、ピンクだったり,茶色だったり、オレンジだったり、むらさきだったりが、迷彩状に混ざりあっている。はっきり言って、エグい。 おまけに、上には生クリーム状の物がどっちゃり乗っかっている。その周りを、やはり大きな、バナナだの、りんごうさぎさんだの、パイナップルだのがお伴のように取り囲んでいる。しあげはもちろん、てっぺんに、まっかなさくらんぼ。 これは…プリン ア・ラ・モードってやつだよね。それもすごく大きな。 こんな大きなプリンを作るなんて、ずいぶんおおきな冷蔵庫がいるよね、って感心してる場合じゃないか。 「むー、ねー、かつおと、ぷりんどっちがおっきいのぉ?」 「うるさいわねっ!世の中いろんなプリンがあるのよっ!」 げしっ。 こんなばかでかいプリン、みややくぬぎだったら、中にすっぽり入ってしまいそう。こんなのと、戦うのはちょっといやだ。 3人は、そばをそーっと通り抜けちゃう事にした。こっちから攻撃しなければ、多分大丈夫だよね。 そーーーーーっと、抜き足、差し足………。 どぴゅっ。 いきなりクリームが飛んできた。みやの頭の上にのっかる。 「くぬぬっ!でこれえしょんみやぱぱだぁ」 と言ったくぬぎに、今度はりんごうさぎさんが、ぴょんぴょんはねて、キックする。 「えーんいたいよー」 くぬぎは言いながら、りんごうさぎさんに反撃した。両手のつめで思いっきりひっかく。 「くぬぎを、泣かしたわねっ」 さらにまなが、シャープペンシルで耳の部分に『ばか』と書いた。これはダメージが大きいぞ。りんごうさぎさんは静かになった。 「むー、わけわかんないこーげき」 「うっさいわねっ!いいの、効いてるんだから。」 と、言ってる間にまた、クリームがみやにむかって飛んできた。多分これがプリンの本体部分の攻撃らしい。 「むー、おいしい」 みやは、鼻の上までたれてきたクリームをぺろぺろなめながら、スプーンで本体部分をたたいた。 ぺち。 プリンがプルルン。 うーん、効いてるんだか、効いてないんだか。 今度はバナナがみやめがけて、ブーメランみたいに弧を描いて飛んできた。みやの頭にぶつかって、また元のところに納まった。 くぬぎはバナナに爪をたてた。 「えーん、ばなながつめにはいってぬるぬるするよー」 くぬぎの攻撃力が低下した。 「あんたも、くぬぎをなかしたわねっ」 まなは、バナナにも『ばか』と書こうとしたが、バナナは表面がやわらかくってうまく書けなかった。 まなの攻撃は失敗した。 みやはまた、本体をスプーンでたたいた。 あいかわらず、効いているのかいないのか良くわからない。 「みや、そんなのより、先にちっちゃいの片付けたほうがいいよ。中ボス戦の常識じゃん!」 「むー、ちゅうぼす1000?」 「あーもういいから、バナナからやっつけるよっ」 くぬぎは、爪をぺろぺろなめて、きれいにした。 くぬぎの攻撃力が元に戻った。 まなは魔法攻撃に切り替えることにした。 「ファイアーッ!!」 バナナはじゅっと音をたてた。そこへもう一度みやが攻撃を加えた。 バナナはおとなしくなった。 プリンのだいだい色の部分がびよーんとのびて、くぬぎをペンっとたたいた。 くぬぎは混乱した。みやの頭にとびついて、頭のクリームをなめ始めた。 「くぬぬっ、みやぱぱっておいしい。でもまけるよ、かつおにはねっ」 「むー、くーちゃんよかったね。でもおもい」 言いながらもみやはスプーンでパイナップルを攻撃した。えらいぞみや。さすが勇者だ。 まなは、また魔法を使おうとした。 「あ…」 「むーどうしたの」 「もう魔力残ってないや」 まなの攻撃は失敗した。 「むー、むすめまたしっぱいした」 げしっ。 そんなことやってる場合じゃないって。 くぬぎは、まだクリームをなめている…いや、今はクリームはなめ終わって、みやの耳をかじっている。 がじがじ。 みやに1のダメージ。くぬぎ、味方を攻撃しちゃだめだよ。 みやはかまわず、スプーンで攻撃。 今度は、プリンのピンクの部分が伸びてきて、まなを攻撃した。ピンクって事はもしかして… 「あ、やっぱり」 まなは、気持ちよく眠りについてしまった。
何ターンが過ぎただろう。まなが目をさますと、敵は本体部分だけになっていた。 くぬぎはあいかわらずみやの頭にへばりついていた。まだ混乱しているらしい。 みやは辛抱強くスプーンで攻撃している。 ぺち と、みやが攻撃する。 ぷるるん と、プリンがゆれる。 びよーん と、プリンの一部がのびる。 ぺんっ と、みやにあたる。 ぺち。ぷるるん。びよーん。ぺんっ。 ぺち。ぷるるん。びよーん。ぺんっ。 ぺち。ぷるるん。びよーん。ぺんっ。 ぺち。ぷるるん。びよーん。ぺんっ。 ぺち。ぷるるん。びよーん。ぺんっ。 延々とお互いあきもせずに、繰り返している。 20回くらい繰り返されたところで、まなは、ものすごくいらいらして来た。 「あーっ、もうっ、うっとーしいっ!」 ごくごくと一気にミルクティーを飲み干した。 体中に魔力が戻ってくる気がする。 「ファイア-―――――ッ!!!!!」 今までよりもずっと大きな炎がプリンめがけて飛んで行った。ボッという音がして、プリンに一瞬火がついた。 そして、プルンとひとつふるえるとおとなしくなった。 「くぬぬっ、ねーねすごいっ。くーちゃんにみせて、おててにかってるごじらをねっ」 手の中でゴジラは飼えないと思うよくぬぎ。 まな本人が一番びっくりしていた。だって今まで、ちょびっとこげる程度だったのに。 たくさん経験をつんできたから、ちょっと強くなってきたんだと気がつくまでにちょっと時間がかかった。
「むー、むすめがんばった、ゆうしゃみやがほめてあげよう、いいこいいこ」 「いっやー参った参ったー」 今やっつけられたばかりのプリンの親玉みたいなモンスターがやたら明るく言った。そして 「申し遅れましたがー、こーゆーもんです」 と、他のプリリンたちと同じように名刺を差し出した。 そこには『6 プリリン・ア・ラ・マ・ドーモ :プリリンの仲間。HP50。プリリンの森の出口にいる中ボス。いろんな特殊攻撃を使ってくる』と書いてあった。 「いっやー勇者さんに会ったのすっげー久しぶりでさー。さすが勇者、自分がおとりになって、魔道師が回復するのを待って攻撃させるなんて。」 そうか、今のはそういう戦いだったのか。 でも、多分誰も意識していないぞそんな事。 「むーみやえらい。えっへん」 多分一番何も考えていないやつが、えらそうに胸を張った。 「えらいのはくーちゃんだい。だってね、みやぱぱのあたまをきれいにしたからね」 でも、その後ダメージ与えていた気もするけど。 「むーくーちゃんもえらい」 「何言ってんの!とどめ刺したの私でしょ!」 「むすめもえらい」 「くーちゃんがいちばんだい!だってね、くーちゃんはとってもかわいいからねっ!!」 「むー、くーちゃんいちばん」 「ま、誰が一番えらくても別に構わないんですけど、写真撮らなくていいんですかぁ」 おっといけない、写真、写真。 みやがカメラを出すと、プリリン・ア・ラ…えーと何だっけ、何でもいいや、とにかくそいつは、あわててどこからか、全身が写る鏡を取り出した。一生けんめい、バナナや、りんごの位置を直す。クリームもきれいにセットしなおした。 この森のモンスター達ってけっこう見た目を気にするタイプが多いみたいだ。 「はいポーズ」 パシャ。 「うーんいいなぁ、こういう緊張感も久しぶりだよお。やっぱり相手が勇者っていうのはいいねえ。」 なんだか感動している。 そうか、勇者は50年ぶりだし、その前のハムスターは出口まで来られなかったって言ってたもんね。 「むー、いいことした」 「くーちゃんは、おもうよっ。おれいにかつおをちょうだいって」 「かつおはないけどこれあげるよ。」 でかいプリリン(だんだん適当になってくる)は、キラキララメペンをまなにわたした。 「これだと、黒っぽいところにも書けるよー。消しゴムでも消えないし」 「わーありがとー」
――-―― キラキララメペンをてに入れた ―――――
「出口はすぐそこだよ。気をつけてねー」
to be continued ………