体育の授業
午後の第一時間目、勘太郎の作ってくれたお弁当をお腹いっぱい食べた春華はひたすら眠かった。折りよく春華の席は、窓際の一番後ろという特等席、昼寝はし放題だ。 『美味かったよな、あの弁当。勘太郎の愛が詰まってたって言うか…』 お昼休みの事を思い出しながら、外をなにげなく眺めると、ちょうど勘太郎のクラスが体育の授業中だった。 勘太郎は髪の毛をちょっとだけゴムで留め、いつもにも増して愛らしい。 思わず目を奪われてしまう。 女子のグループの中でバレーボールをしているのだが、女の子の中に入ってもはっきり言って上手な方じゃない。小さいときから体が弱く、家の中で妖怪の研究ばかりしていたから仕方ないのだろうけど。 『あ、また、レシーブはずした。まったくどんくせえな。…そこが可愛いっちゃ、可愛いんだけどな』 レシーブを外した勘太郎は。てへへという顔で舌を出し、回りの女の子達に肩を叩かれたりして慰められている。 『あ、あああっ、オレの勘太郎に触んなっ。ま…まぁ、女子だから許すけど…あ、頭なでんじゃねえっ!勘太郎も喜んでんじゃねえよっ、あほ』 春華が激しく嫉妬している間に、試合は再開された。 相手のサーブがコートに入り、勘太郎がとてててと走って、レシーブしようとした。 『やめときゃいいのに、またドジるぞ。』 春華の勘は的中した。 中途半端にはじかれたボールは勘太郎自身のあごを直撃し、勘太郎は大きくのけぞって仰向けに倒れた。 「勘太郎っ!!!」 春華はとっさに席を立ち、窓を蹴破ってベランダに出た。 「こ…こらっ!授業中だぞ、どこへいくんだ!」 先生の制止も耳には入らず、ベランダから身を乗り出す。 「きゃあああっ、春華くんここ4階よっ」 女生徒が叫ぶのと、春華がその大きな黒い翼を広げてグラウンドへと飛び降りていくのとが同時だった。 「そういえば、春華くんて、黒天狗?だったっけ…本当だったんだ」 学校で羽を出した事はなかったけど。 「大丈夫かっ勘太郎っ!」 グラウンドに降り立つのと同時に翼をたたみ、春華は勘太郎へと駆け寄る。 「ハルカ?だめだよぉ授業さぼっちゃ」 「何言ってんだ、保健室行くぞ。頭打ってたらどうすんだっ!」 「えー大丈夫だよう、ちょっと休めば」 勘太郎の抗議もきかず、周りにはさらに目もくれず、勘太郎をお姫様抱っこで保健室へと運ぶ。 結果は…肘にちょびっとだけ擦り傷ができただけ。 「よかった、大変なことにならなくて」 大げさに大喜びする春華を、保健医は呆れた顔で見ていた。 この日から、春華は『過保護な黒天狗』として有名になった事はいうまでもない。