お弁当
昼休み、いつもいっしょにお弁当を食べる、図書館わきの芝生には、今日も陽がさんさんと降り注いでいた。 「あ、ちょっと開けるの待ってハルカ。」 お弁当のフタを開けようとした春華を勘太郎が止める。 そっと自分のお弁当のフタを開け、中身を確かめる。ほっとして 「大丈夫だった、よかったぁ」 と胸をなでおろす。 「ハルカの開けてあげるね」 と言って、自分よりも2回りは大きい春華のお弁当箱のふたを開けた。 が、中身を見たとたん、泣きべそになってしまう。 「うぇええん。ボクのは大丈夫だったのにぃ」 せっかくきれいにピンクのデンブで描いたハートが、ゆがんでぐちゃぐちゃになってしまっている。 「ああ…今日電車混んでたからな。しょうがねえじゃねえか、味は同じだろ?」 「でも…せっかくおそろいにしたのに…」 勘太郎のお弁当のハートは、きれいな形を保っている。 きっと時間をかけて一生懸命作ったんだろう。 「せっかく、愛を込めたんだよ?」 「じゃこうすりゃいいだろ」 春華は少しづつ丁寧に崩れた部分を箸で整えながら、お弁当を口で運ぶ。 しばらくたつと、少し小さくなったピンクのハートの形にご飯が残った。 「ほら、ハートの形だぞ」 「でも…」 勘太郎は不満そうだ。 「ボクの、春華にあげた愛が小さくなっちゃった」 「あのな、勘太郎」 春華は、じっと勘太郎の目を見つめる。 「愛は、大きさだけじゃなくて、深さで決まるものなんだ」 「え?」 「だから、そんなこと気にするな」 なんだかよく分からない気もするけれど、春華が慰めてくれているのは良くわかる。 それが嬉しくて、お弁当が崩れたのも神様の思し召しとまで思えてしまう。 「明日は、ちゃんといつもの電車に乗れるようにしような」 「うん、明日は春華がお弁当つくってね。あ、うさぎりんご入れてね」 「わかった」 一生懸命りんごをうさぎの形に切っている春華の姿を想像すると、くすっと笑いがもれる。 「どうした?」 「なんでもない。あのね、たこさんウインナも欲しいなぁ」