金米糖

  
   
 夏の夜、春華と勘太郎は屋根の上で一緒に夜空を眺めていた。  風呂上りの肌に、夜風が心地よい。 「お星様ってさ、金平糖みたいだよね」  勘太郎がうっとりと満天の星空を眺めながら言う。 「ホントにそう思うか?ベタだなオマエ」 「あ〜ん、もうハルカは、ロマンがないなあ」 「星を食いもんに例えるのがロマンか?」 「う〜そう言われると〜」  返事に困って話題を変えようと、きょろきょろ見回す  やがて空の一箇所を指差して 「あ、あそこの、すっごく光っててえらそーな星、ハルカみた〜い。きれいだけど、いばってんの」 「それなら…」  春華はすぐ傍の、小さな星を指差して 「あの、そばでちまちま忙しく点滅している星は、まるで勘太郎だな」 「ひっどーい。人を落ち着きないみたいにぃ。でもいいやハルカの星の傍だもんね」  とにこにこしていたが、やがて急に悲しそうな顔になる。 「どうした?」 「星ってさ、ここから見ると近く見えるけど、実際は遠くにあるんだよね。あの、ハルカの星と、ボクの星もきっとう〜んと遠くにあって、一生出会えないんだ…」  すっかりその気になってしまったらしく、春華を見上げる目が涙ぐんでいる。 「はぁ?あのなあ、勘太郎…、それは、星の、それも今勝手に名前をつけた星の話だろう。オレとオマエはこうやってちゃんと出会ってるんだからいいじゃねえか」  「そういう問題じゃないよう。ハルカは不安にならないの?もし2人がばらばらになっちゃって、あんな大きな空みたいに広い世の中で離れ離れになっちゃったら、会えなくなっちゃうかもしれないって」 「なるわけねえだろ。オマエいつもべったりくっついてるくせに」 「だって…だってえ…。あそこの天の川とかに紛れ混んじゃったりしたら、見つからなくなっちゃうよう。まるであそこ満員電車みたいにぎっちりいろんな星がつまっちゃってるもん」 「…見つけてやるから」  人差し指で、そっと勘太郎の涙をぬぐってやる。 「どんなにたくさんの中にいても、おれが絶対見つけてやるよ。オマエがオレを一生懸命さがして、封印を解いてくれたように、今度はオレが探し出してやる。だからオマエは安心して待ってろ」  勘太郎は、じっと春華をみつめ、今度は自分で涙を拭いた。 「うん。えへ、安心しちゃった。絶対だよ。」  その時、すっと星が流れた。2人は黙ってそれぞれ星に願いをかけた。そしてそれは多分同じ。  ずっといっしょにいられますように。