イチゴ

  
   
「ねーハルカぁ、これ行こうよ」  ある春の日、勘太郎が一枚のパンフレットを取り出した。  『日帰りイチゴ狩りの旅。食べ放題パック、お土産付き』と書いてある。 「苺だぁ?」  春華は想像してみた。  そりゃたしかに、勘太郎にイチゴ狩りはよく似合う。勘太郎がうれしそうにイチゴを食べている姿は想像するだけでも愛らしい。  でも自分もイチゴ狩りをすることを考えると二の足を踏んでしまう。 「オレに苺は似合わねえだろ。オマエには似合うけどな」 「えーそんな事ないよう。じゃ、ボクにイチゴが似合うのに、ハルカには似合わないって事は、ボクとハルカが似合わないってコト?そんなの、ひどーい」 「あのな…そんなこと言ってねえだろ」 「ハルカはボクとイチゴ食べるのが嫌なんだぁ。きっとあの同級生の女の子のほうがいいんだぁ」 「いい加減にしろ!怒るぞ!」  春華は、勘太郎に背を向けた。よりによって、『あの同級生の女の子』ってなんだよ。自分だって、同級生の女の子達と楽しそうにしてたくせに。 「ごめーん、ハルカ、怒った?」  勘太郎は春華の背中に寄りかかる。 「怒っちゃいねえよ」 「うそだぁ、声が怒ってるぅ」 「怒ってねえってば」 「じゃ、行こう、イチゴ狩り」 「…う…」 「ね?」  振り返ると、勘太郎の笑い顔。  いつでもこれでごまかされるんだ。そう思いながら 「…わかったよ」 と言ってしまう自分がいる。情けない…が、なんとなくちょっと幸せ。これが、いわゆる『惚れた弱み』ってやつか。 「わあい、ありがとう、ハルカ。ね、いっぱい食べて来ようね。競争しよ!」  次の日曜日イチゴ狩りに出掛けた2人は食べ過ぎて、揃ってお腹をこわし、月曜日は学校を休むはめになった。 「でも、楽しかったよね。秋にはぶどう狩りに行こう。あ、夏のブルーベリーもいいなあ」 「オレはもう懲りた」 「ふふ。そんなコト言っても、きっとハルカは一緒に行ってくれるんだ。ボク知ってるもん」  おかゆを食べながら無邪気な顔で勘太郎はそんなことを言う。  お土産の、イチゴ柄の写真立てには、2人が仲良く並んでイチゴを食べている写真が飾られていた。