いちごのピン
「お客様、こちらはプレゼントですか?」 春華は店員のお姉さんの声に、はっと我に返り、あいまいな感じで頷く。 「リボンは、ピンクと水色とありますが、どっちになさいますか?」 「ピンクで…」 「かしこまりました」 お姉さんは、にっこりと答える。手早く花柄の包装紙でプレゼントを包み、淡いピンクのリボンをかける。 「お待たせいたしました。彼女へのプレゼントですか?きっと可愛い方ですね?」 社交辞令とも言えるお姉さんの言葉に、春華はすっかり気を良くし、『可愛い彼女』の待つ家へ帰って行った。 「おっかえりぃ、ハルカ。寂しかったよぉ」 玄関を入ると、留守番をしていた勘太郎が仔犬のようにまとわり付いてくる。 「風邪、よくなったか?」 「うん、もう平気。ごめんね心配かけて」 熱が出た勘太郎の代わりに、春華が編集部まで原稿を届けに行ってきたのだ。 「ああ、これ…」 なにげない風を装って、さっきの包みを渡す。 「なぁに、これ?おみやげ?」 勘太郎は不思議そうに包みを受け取る。袋は、可愛いものをいっぱいうっている、ファンシーショップのもの。 「そんなところだ」 包みを開けると、春らしいピンクのいちごのピン。 「わあ、かわいい。ねえ、ハルカ、つけて」 前髪にそっとピンを挟み込む。銀色に輝くサラサラの髪にピンク色がよく生える。 「似合う?」 見上げる勘太郎に、黙って頷く。 「ねえ、ハルカ、ひとりであのお店行ったの?いつも恥ずかしいって言って外で待ってるじゃない」 「気が向いたからな」 照れ隠しにそんな言い方をするが、ほんとうは必死だった。 一人で留守番をしている勘太郎になにを買っていってやったらいいだろう。 考えた結果が、これだった。 『ハルカ、ぼくのために、がんばってくれたんだあ』 そう思うと、ピンが、宝石よりもずっとずっと価値のあるものに思えてくる。大切そうにピンに触れる。 「ね、こんどはいっしょにお店に行ってね」 「また、気が向いたらな」 春華はそう言って笑い、ピンに触れている勘太郎の手に手を重ねた。そのまま優しく髪をなでる 「また、熱でちゃうよ…ハルカ」 「そうしたら、また看病してやる」 それもいいかも…と、つい思ってしまう勘太郎だった。