昼間はあんなにいい天気だったのに、夕方急に空が曇り始め、学校から帰るころには雨がしとしと降り始めていた。 「止みそうもないね」  すっかり灰色になった空を見上げて、勘太郎が呟く。 「そうだな」 「ハルカ傘持ってる?」 「そんなもん、持ってるわけねえだろ」 「そうだよねえ」  少しくらいの雨なら降っていたって傘なんてささない春華が、あんな晴れた朝に傘をもって出掛けるはずがない。 「ボク今朝、天気予報、聞き損っちゃったんだよねえ」  そういえば、出掛けにばたばたといちごのピンを探していたのだった。 「聞いていれば、ハルカに注意してあげられたのに、ゴメンねハルカ。しょうがないから、いっしょに入っていこうよ」  そう言いながら、自分のカバンの中から、ピンクの小花模様の傘を出す。柄のところも花の形になっていて、とっても勘太郎によく似合う…けど…? 「オレが…これを差すのか?」 「えーだってハルカの方が大きいんだから、ハルカが持ってくれないと、ボク背伸びして歩かなきゃならないじゃない」  それもそうだ。春華は渋々ピンクの傘を手に取り、二人仲良く肩を並べて歩き始めた。  …が、しばらくたって、春華は大変な事に気がついてしまった 「勘太郎っ!オマエびしょ濡れじゃねえかっ!」  春華と勘太郎では身長差がありすぎて、小さい勘太郎は春華と反対側の肩がびしょ濡れになってしまう。春華は気をつけてなるべく勘太郎に傘を差しかけるようにしていたのだが、それでも勘太郎は良く見ると髪まで濡れている。 「ダメだっ、やっぱり無理だからオマエ一人で差せ。風邪引き易いんだから」  春華はムリヤリ勘太郎に傘を押し付ける。 「ダメだよ、ハルカが濡れちゃうよお。」  泣き出しそうになりながら言い出す始末。 「ボクが一個しか傘持ってないからいけないんだ。ゴメンねハルカ。今度から傘10本くらい学校に置いとくね」  仕方なく2人は店の軒下で雨宿りをする事にした。 「タオル出せ。拭いてやる」  勘太郎がカバンからタオルを出すと、春華は勘太郎の頭をごしごしと拭いてやった。 「ハルカ、ピン落とさないで。それすっごく大事なヒトからもらったんだから」 と言いながら勘太郎はくすくす笑う。 「何言ってんだ。オマエは。…恥ずかしいじゃねえか」 「ハルカ、水も滴るいいオトコになってるよ」 「ばーか」  春華も思わず微笑んだ。  雨が上がって虹がでるまで、あともう少し…。