White Day
春華はここのところずっと悩んでいた。ホワイトデーをどうしよう。 バレンタインデーに勘太郎は手作りのチョコレートケーキをプレゼントしてくれた。二人でケーキを食べて、ちょっぴりだけワインも飲んで、楽しい時間を過ごしたっけ。ほんのりと頬をピンクに染めた勘太郎は 『可愛かったよなあ…』 1ヶ月前を思い出しながら、暖かい気持ちが胸にこみ上げてくる。 『いけねえ、ほのぼのしてる場合じゃなかった』 友達に相談したら、面白がっていろんな事を言われてよけい混乱した。廊下で何気なくクラスの女子に聞いてみたら、勘太郎に目撃されて勘違いされそうにもなったりもした。 ホワイトデー特集の雑誌も立ち読みした。でもブランド品なんて勘太郎に似合わないし(第一金もない)、花束なんてガラじゃない。ましてや下着ってわけにもいかない。 『結局…自分で考えろってことだよなぁ』 勘太郎は、気持ちだけでも喜んでくれるかもしれないが、それでは自分の気がすまない。 悶々としているうちに、ホワイトデー当日になってしまった。 「ハルカ、今日ボク、放課後、グループで調べ物があるんだ。いっしょに帰れないや、ごめんね」 昼ごはんを食べながら勘太郎はそんなことを言った。ホワイトデーの事を一言も口にしないのが、また、いじらしい。 「そうか?待ってるぞ」 「ううん、何時になるか分からないから、先帰ってて」 なんとなく元気がなく見えるのは、自分のせいかなと思う。消沈したまま家に帰り、じっと考え込む。 どんなものを勘太郎は喜んでくれるんだろう。自分だから、してやれる事ってなんだろう。 やがて日も暮れかけた頃、勘太郎が帰ってきた。 「ただいまーハルカ、夕飯のお買い物してきたよ。どうしたの?灯りもつけないで」 「でかけるぞ」 「え?今から?」 怪訝そうな顔の勘太郎を抱え、翼を広げて空に飛び立つ。 「ちゃんとつかまってろよ。それから、目つぶってろ」 「う…うん」 勘太郎は言われるまま、ぎゅっと目をつぶり、春華の腕にしっかりとつかまる。 やがて、体がふわっとどこかに下ろされる。二人の体がちょっと離れて不安になり、思わずしがみつく。 「目あいていいぞ」 そっと目を開けると、目の前に広がる壮大な風景。遠い山の陰にちょうど大きな夕陽が沈むところだ。 「きれーい」 うっとりと見とれる勘太郎。瞳に夕陽がうつり、いつもにも増して赤く輝いている。 「気に入ったか?オレからのプレゼントだ。バレンタインデーの時はありがとうな」 そっと、勘太郎の目蓋にキスを落とす。 夕陽がすっかり落ち、姿がシルエットに変わるまで、ずっと2人は寄り添っていた。