1.Let't Go to the "Nezummy Land" part2

 
  
    
 みんなで話し合った結果、ねずみーらんどへのお出かけは、12月24、25、26の2泊3日となった。  みんなで…?というよりも、勘太郎がやたらと強く主張していたような気がする。なぜだか知らないけれど。  出発の24日の朝は快晴だった。 「血の雨降らなかったねー」 「…だから…降らねえって…」  出発前から、淳は疲れていた。大丈夫なんだろうか。 「いってらっしゃーい ♪ 」  玄関前で、何故か勘太郎は春華にお姫様だっこをされていた。嬉しそうに両手を振って、みんなを送り出す。  ちなみにみやは、かごめの家の母屋でブヨといっしょに、ぬくぬくと日向ぼっこをしている。みんなが住んでいる別棟からは、どういうわけか追い出された。 「かごめちゃん、どことどこにビデオセットした?」  由利香が小声でかごめに聞いた。 「ぬかりないわ。一応、別棟の全部の部屋にセットしておいたから。ケータイに転送されるようになってるの。」  人の部屋にまでセットしておいたんだろうか…。  というより、人の部屋でまでいちゃいちゃするのか?  もしかして、数日前に最新型の携帯に買い換えていたのは、そのためか?おそるべし、かごめ。 「すっごーい。ハイテクー。便利な世の中だよね。」 「はいてく、ってなんだ?食えるのか?」  犬夜叉が割り込んできた。彼はとにかくカタカナに弱い。 「えー、犬ちゃんそんなことも知らないの?『はいてく』つったらあれよ。靴を履いてく、とか、箒で掃いてく、とか。」  自信満々で、金花が言った。思いっきり違う。  英語は得意じゃないのか、それとも単に英語に興味が無いだけなのか?とりあえず、わざとじゃなさそうだけど。 「コノ。それ、絶対ちがう。」  柚莉はどちらにしろ、訂正することにしたようだ。 「えー、何よ柚ちゃん。どこが違うって言うのよ。」 「だから、そっちのハイテクじゃなくって、英語だよ英語!」 「なーんだ英語か。『はいてくのろじー』の方ねー。」 「あー、びっくりした…。ホントに知らなかったらどうしようかと思ったよ。いぬさんじゃあるまいし。」 「やーだ柚ちゃん。犬ちゃんと一緒にしないでよー。単に英語をあんまり使いたくないだけよー。」 「はいて…なんだって?」  犬夜叉は首を傾げる。さっぱりわからないと言った表情だ。 「やっぱ、馬鹿だな、犬」 「淳、ひっどーい。犬夜叉は住んでた時代が違うんだからしょうがないじゃない。その代わり、妖怪の名前は色々知ってるよね、ね」  由利香がフォローしようとするが。 「そんなもん、役に立たねえ」  身もフタもない。  クリスマスシーズンと言うこともあり、ねずみーらんど行きの電車は無茶苦茶混んでいた。 「あれ、ゆーちゃんいないよ」  由利香はあたりを見回した。 「コノちゃん、ダメじゃない、しっかり持ってないと」 「えー、めんどくさい。大丈夫よ、小学生じゃあるまいし。電車が着く頃には、ちゃんと見つかるって。」  へたな小学生よりちっちゃいと思うけど、本当に大丈夫なんだろうか。 「あれ、そうじゃねえか」  犬夜叉は、はるかかなたで、浮き沈みしている、濃い紫色の固まりを見つけて言った。多分柚莉の頭だ。 「えー見えない〜」  由利香はその場でぴょんぴょん跳ねるが、153センチの身長では人の頭にはばまれて見えない。 「ユカ…人ごみで跳ねると、すっげー迷惑。いてっ!人の足の上に着地すんな」 「あ、ごめん」 「なんか、あいつ、溺れてるみてえだけど、助けに行かなくていいのか」  淳は犬夜叉が指差すほうに目をやった。 「いっくらなんでも、人ごみで溺れるはず…ホントだ」  両手を頭の上でぱたぱた左右に振って、存在を主張しながらアップアップしている姿は、ちょっと…いや、かなりカワイイ…けど 「ったく、しょうがないわね。」  金花は小さくため息をつくと、腰から白い拳銃、『白桜』を取り出した。 「きゃーコノちゃん、カッコいー」  由利香が憧れの混じった目つきで銃を見つめる。  でもそれって、銃刀法違反じゃ… 「うあ、やめろ金花っ!それはやべえって」  あわてて淳が『白桜』を取り上げようとする。 「えーだって!この人ごみをどうにかしないと、柚ちゃんが大変じゃない!」  金花は素早く身をかわしながら言った。  そんなに必死になるなら、始めから捕まえとけばよかったのに… 「とにかく、しまえっ、それ。ここは日本なんだから、そんなもん振り回してると罰金とられるぞ」 「うっ…!」  罰金、という言葉に反応して、金花はしぶしぶ『白桜』をしまいこんだ。 「…で、どうすりゃいいのよ。もう一つ考えてた手は、一人ずつ締め上げていく方法なんだけど…こっちのほうが時間かかるでしょうね。」 「そりゃそうだよな。締め上げると、その辺に倒れこんで、それ乗り越えてくのもめんどくせえし」  淳は妙な同意の仕方をして、ちょっと考える。…けど、すぐに 「あーめんどくせえ。犬、あそこまで、人かき分けてって、拾って来いよ」 「自分でやれよ」  犬夜叉も面倒くさそうに言い返す。 「おれ、非力だから、あんなの持って来らんねえ」 「…ほんとかよ」 「握力5キロくらいだし」 「う〜ん、じゃしょうがねえか」  いくらなんでも、5キロってことはない。一応、鉄棒で大車輪くらいはできるんだし。  しかし犬夜叉は簡単にだまされる。さすがO型、単純だ。(だましている方もO型だけど) 「がんばれ〜犬夜叉〜」  由利香が無責任に応援する。 「犬ちゃん、頼んだよー。地球の未来は君にかかっている!!」  金花は金花で、なんだか意味不明な応援をしてるし… 「そ…そうか、地球の未来か」  なんだかいい気持ちになって、犬夜叉は柚莉救出作戦を開始した。  …と言っても、ただ人をかき分けて柚莉のところまでたどり着いて、ピックアップして戻ってくるだけなんだけどね。  よっしゃぁと勢いをつけて、腕まくりをして、柚莉の方へ向かう。がしがしと人をかき分けようとする犬夜叉に、周りの非難の目が集中する。 「乱暴だなーあいつ」 「淳、いっしょに行ってあげなよ」 「男二人で動き回ったらますます迷惑だろうが」  多分、単に面倒なだけだ。 「わかった、じゃ、私行って来る。すいませーん、そのひと、目つき悪いけど、悪い人じゃないでーす。友達のところに行きたいだけなんで、通してあげてくださーい」  周りに謝りながら、由利香は犬夜叉の後を追った。小柄な由利香が、左右ににこにこと愛想を振りまくと、ぎっちりつまった乗客たちも、体をずらして場所をあけてくれようとする。 「ねー、こうしないとだめだよ、犬夜叉」  と笑顔を顔に貼り付けたまま、犬夜叉の前に出る 「お…おお、そうか」 「ごめんなさーい、しつれーしまーす、ちょっと通してくださーい」  そのままの調子で人ごみを掻き分けて、どうにか柚莉に手がとどくところまで、やっとの事でたどり着いた  犬夜叉は手を伸ばすと、人の波の中で息も絶え絶えになっている柚莉の服の首のあたりを片手でぐいとつかまえて、一気に頭の上まで持ち上げた。 「きゃーきゃーなにすんだー。コノー助けてー。」  わーとかぎゃーとか叫びながらばたばた暴れる柚莉を、軽々と両手で頭上に差し上げたまま戻ってくる。まわりの乗客は、びっくりした顔でその様子を見守る。思わず一歩引いて場所をあけてくれた人がほとんどで、帰りはわりと楽だった。 「ほらよ」  と言いながら、柚莉を金花に渡す。 「さすが馬鹿力」 「けっ」  この騒ぎの間、かごめは何をしていたかと言うと…食い入るように、携帯に転送されてくる画像に見入っていた。 「何だそれ?」  淳が覗き込んだが、なにか人型のものが動いているだけだ。 「おもしれーのか?それ」  聞いてみると、何も言わずに、こくこく頷く。すっかり自分の世界に入り込んでいるようで、小声でぶつぶつと、あああっ手が、とか、きゃあっそれはまずいわ、とか呟いている。  つられてもう一度覗き込むが、手もなにもまったく分別不可能だ。  淳の視力もかなり良いはずなのだが…。恐るべし腐女子の腐視力。 「コノー、いぬさんがいぢめたー。」 「はいはい、悪い犬ちゃんだねー。またはぐれると(私が)大変だから、しっかり吊り革に掴まってなー。」  金花は柚莉をゆっくり下ろしながら言った。  掴まれるのか、吊り革なんて…???吊り革に掴まれるくらい大きければ、人ごみで溺れたりしないと思う。 「そうそう、かわいーゆーちゃんを苛めちゃだめだよ、犬」  無責任に淳が言う。たしか、淳が犬夜叉を行かせたような気がするのだけど。 「おっ、おれ苛めたのかっ?」   「ちょっと見、な。しょうがねえじゃん、世間の目は厳しいんだよ」  そういうことなんだろうか。  味方をしてくれてもいいはずの由利香は、かごめの携帯をいっしょに覗き込んでいるし、一番がんばったはずの犬夜叉は四面楚歌の状態。  もう絶対に、淳のいうことなんか聞いてやるものかと、とりあえず決心を固める。

 そのころ、かごめ宅の別宅では、勘太郎がるんるんと楽しげにクリスマスツリーの飾りつけをしていた。 「うふふふふ、うっれしいな。ハルカと二人っきりのクリスマス。あ、てっぺんのお星様はハルカがつけてね 」 「そんなに嬉しいか?」 「うんっ。だっていつも他の人たちに邪魔されて、ゆっくりできないじゃない?3日も二人っきりなんて初めてだよね。」  にっこりと春華を見上げる。紅い瞳がきらきらと輝いている。これで、30代のオトコだなんて完全にサギだ。  春華は、勘太郎の後ろに回りこみ、やわらかく包み込むように勘太郎を抱きしめた 「いつだって、ゆっくりしてるじゃねえか」 「きゃああん、ハルカぁ、まだ昼間だよおお」  二人っきりの3日間は、まだまだ始まったばかりだ。


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