1.Let't Go to the "Nezummy Land" part3-1

 
  
    
 電車があれだけ混んでいただけあって、ねずみーらんどはとっても混んでいた。 「この中って、けーたいつながりにくいんだよねー」  由利香が不満そうに、自分の携帯の画面を見る。アンテナが一本しか立っていない。  と、いうことは、はぐれたら再会するのがとっても難しいということだ。  はぐれた場合の待ち合わせ場所は、一応決めておき、一つ目のアトラクションに向かう。 「金花、柚莉に紐つけとけよ。またどっか行っちまうぞ、ちよちよって」  淳が言うと、また呼び方にチェックが入る。 「淳ちゃん、『柚莉』じゃなくて『柚ちゃん』だよ。」 「じゅん!『金花』じゃなくて『コノちゃん』とか、『金花ちゃん』でしょ!?大体ちよちよって何!?ちよちよって!」 「ちよちよしてんじゃん、ゆーちゃんは」 「まあ、とりあえず紐はつけておくけど。」  言うと、金花はどこからか荒縄を取り出し、柚莉の胴体に巻きつける。 「…なんかやだな、これ。」 「柚ちゃん、文句言わない!」 「なんか、罪人みてえだな」  荒縄について、犬夜叉が感想を述べる。  確かに、連行される人みたいだ。それに、二人が最初着ていた『出掛け着』とは違った意味で、ものすごく人目を引く。結局、金花はかんざしを付けたままだし。 「あー私こーゆーの持ってるよ」  由利香がどこからともなく、よちよち歩きの赤ちゃんにつける、紐のついた胴輪をだした。ピンクの地に赤い花柄で、とってもカワイイ。 「こんな事もあろうかと思って」  こんな事って、どんなことだ? 「あ、いいじゃんこれ。」  金花はさっそく荒縄を解いて、代わりに由利香の出した胴輪を柚莉に付けた。 「わー、すっごく似合うよーゆーちゃん」 「えー、やだよこんなのー。」 「柚ちゃん、我がままよ!ねーねー、かごめちゃんも見てー。似合うでしょ?」  言いながら、金花はかごめを振り返った。  そのかごめはというと、どうやら今までずっと携帯をいじっていたらしい。けど、ここはねずみーらんど。どうもイマイチ電波の入り具合がよくないらしく、イライラしながら呟いている。 「まったく、せっかく良い所だったのに…。ああ、きっと今頃…。」 「かごめちゃーん」  金花の二度目の呼びかけにハッと気づいて、携帯をしまい、いつものにこにこ顔に戻った。 「なあに、コノちゃん?」 「これどう思う?」  と言いながら柚莉を見せると、かごめは何故か血相を変えた。 「だめよ!」 「え、どうして?かわいーじゃん。」 「かわいくてもダメ!白昼堂々と『縛り』なんて、そんな!」  縛りじゃないって、縛りじゃ。  金花はまたしても意味が分からず、首を傾げた。 「シバリ?」 「縛りっつうのは、一種のプレイで、縛るのが好きなやつと、縛られるのが好きなやつがワンセットで初めて成立するという…」 「じゅ――んっ!コノに妙な事教えないでっ!」  説明し始めた淳に、柚莉が慌ててストップを掛けた。 「へええ、じゃあ、ムチとローソクとかの親戚かあ」  無邪気な由利香の口調だが、内容はコワイ。しかしこれもまた、どの程度理解されているかは疑問。 「それが嫌なら、これにするか?」  淳が、またもやどこからか手錠を出した。手ぶらにみえるのにどこに持っていたんだ? 「こんな事もあろうかと…」  だから、どんな事だ!?  とにかくこれで、荒縄と、胴輪と、手錠(?)が出てきたわけだ。その3つを並べて、しばらくああでもない、こうでもないと話し合った。が、10分ほどして、とうとう金花の我慢に限界が来た。 「あーっ、めんどくさいっ!もーやめやめ!手錠も綱もシバリもなしっ!ここでこーやって話してても意味ないから、とりあえず行こう!柚ちゃんは、はぐれたらはぐれた時のことよ!」 「えーっ!コノ、それヒドイよ!」  悲しそうに不満を言う柚莉に、 「大丈夫。ねずみーらんどには、迷子案内所もあるらしいから。」  と返す。  迷子センターに届けられる子の多くは10歳未満だから、かなり恥ずかしいだろうけど。 「まあ、迷子にならなきゃいいワケだしね。」 「こいつだったら、迷子センターに混じりこんでても違和感ねえしな」  淳の言葉に、皆うんうんとうなづく。  みんな、迷子になるのは柚莉と決め付けているけれど、他の人は大丈夫なんだろうか?柚莉に比べて、しっかりしているとは、必ずしも言えないような気もする。  犬夜叉は人ごみに慣れていないし、かごめは携帯に気をとられている。淳は地図とか見ないで本能にまかせて歩き回る性質だし、由利香ははっきり言って方向オンチだ。残るのは金花だが、多分、道にばっかり集中してるわけないし。 「目標は全遊戯設備を制覇だからねっ」 「どーして、コノちゃん」   由利香は、好きなのに何回も乗るのも楽しいのになーと思う。この前は同じ某コースター系のアトラクションばかり10回乗って、フラフラになって楽しかった。 「だって、せっかくタダなのよ!?全部乗らなきゃ勿体無いじゃないっ。」  金花らしい、というか、貧乏人らしい見解だ。王女さまなのに… 「うう…コノ、不憫だ。」  柚莉がそれを聞いて、またしても涙。 「げー。っつうことは、待ち時間45分のあれとか、1時間のこれとか、1時間半のそれとかも乗るって事かよ。おれ、死んだひいじいちゃんの遺言で、10分以上の行列には並んじゃいけねえって…」  淳がぶつぶつ文句を言う。…絶対面倒なだけだ。 「遺言だろうがなんだろうが、全員乗るの。姫様命令よ!」 「そっかあ、コノちゃんお姫様だったんだあ。淳、お姫様の言う事は聞かなきゃダメなんだよ」 「そーだっけ?」 「あったりまえじゃない!」  自信満々に由利香に言われてしまうと、なんかそうかもしれないと、ちょっとだけ思ってしまう。  金花はやたら張り切って宣言する。 「ハイ、じゃあ最初は『アリスの茶会』に行ってみよー!これは4人乗りだから、3・3に分かれればいいね。グーパーで分かれるよ!」 「ねー、コノ、グー出してよ。」  柚莉は小声で金花に耳打ちした。 「え、何で?」 「いーから出して!」  柚莉の心、金花知らず、ということわざが、あるとかないとか。  とりあえず、みんなでグーパージャンケンをする。 「ぐっとぱー」  犬夜叉はパー、かごめはグー、由利香はグー、淳はパー、柚莉は宣言どおりグー、そして金花は…パー 「あ。…間違えちゃった。」 「コノおおっ!!」  絶叫する柚莉に、金花は悪びれずに言った。 「いやーわりぃわりぃ。いーじゃん、結局きれーに分かれたし。」 「良くないっ!」 「何よ、柚ちゃん!私の決に異議でもあるのっ!?あるなら最初ッから言やあよかったでしょうが!」 「別に異議じゃないけど…」  口を挟む暇なんてあったっけ?そもそも、間違えたのは金花だし。  それでも柚莉は「コノ至上主義」の性質のせいか、理不尽なこの言葉にも、全く返せない。 「決まったもんは仕方ないでしょ、しばらくしたらまた替えてあげるから。アンタもいい加減親離れしなさいよ。」 「…。」  親にしては、あまりに無責任だぞ、金花。 「わー、ゆーちゃん、コノちゃんといっしょになりたかったんだあ。らぶらぶー」 「ユカ、多分、そいつら、ラブラブっつうより、ラブ→。だな」 「えー、そーなんだー、大変だねゆーちゃん」 「なんだ、なんだ、柚莉片思いなのか」  あまりにも無神経、かつストレートな犬夜叉の言葉に柚莉は 「なんだよっ!いぬさんなんて二股犬のくせに!」  それは、禁句だ、柚莉。 「犬夜叉、二股なのぉ?浮気はいけないんだよ、ね、淳」 「ユカ、違う。二股っつうのは、どっちも、本気なんだって。だからよけいやべえ」 「ええええっ、そんなことできるの。器用だね、意外に」 「うるせえっ!これにはいろいろ事情があんだよっ」  ある意味開き直りともいえる犬夜叉の発言に、かごめがキレた。 「犬夜叉、おすわりっ!」  犬夜叉は勢い良く地面に叩きつけられた。 「おー相変わらず見事」  淳が感心して、地面に半ばめりこんでいる、犬夜叉に声をかける 「生きてるかー」 「か…かごめっ、てめぇっ」 「あ、生きてる」  かごめはそれでも怒りが収まらないらしく、ケータイをいじっていた時とは全然違う、厳しい顔になって言った。 「何よ!あんたがあんなこと言うからでしょ!」 「なんでえ、てめえだって、北条とか鋼牙とか…」  言いかけた犬夜叉に、再度かごめのおすわり攻撃が飛び、犬夜叉はさらに深く地面にめりこんだ  通り過ぎる人たちが、何事かと覗き込んで行く。やっぱり結局人目を引くはめになってしまった。 「へえ、かごめもなかなかお盛んなんだ。やるな二人とも」 「えええーっ、かごめちゃんは、犬夜叉一筋だと思ってたのになんかショックー」 「無理もねえよな、相手が二股じゃ」 「そうだよねー猫又になってもしかたないよね」  それは全然関係ない。猫又は雲母ちゃんだし。  まだ地面にへばりついている犬夜叉を、かごめを除く4人で引き剥がし、金花の提案の『アリスのティーパーティー』に並ぶことにした。これはいわば、どこの遊園地にでもある、単なるコーヒーカップなのだが、真ん中の円盤をつかんで回すと、かなりのスピードでカップが回転し、失神者続出という見た目の可愛さと裏腹の恐ろしいアトラクションだ。 「結構並んでるわね。」  金花が列を眺めて言った。最後尾のところに、「あと40分」と書かれた札を持った、従業員らしき人がいる。 「帰る」  淳はいきなりくるっと向きを変えて立ち去ろうとした。 「ちょ…ちょっと淳、、40分なんて短い方じゃない!これでめげてたらさあ」  由利香がなだめようとするが。 「やだ、やだ、やだっ。ぜーーってぇやだっっ!コレが40分って事は、他は凄まじく待つっつう事だろが。おれは、もう、いい。チェックインして、ホテルで寝てる」  ほとんど駄々っ子状態だ。 「やぁだ、淳がいなくなったら、私、二組のラブラブカップルの中で、孤立無援だよ。」  柚莉が『わー、ぼくらって、らぶらぶなんだあ』とひそかに心の中で小躍りし、金花がラブラブカップルって何の事だろうと考えていると、怪しい男が足音もなく近づいてきた。  そっと淳の肩をたたくと、小声で 「おにーさんおにーさん、いい券ありますぜ」  と声をかける。 「なんだ、この聞きなれたフレーズ…」  淳が振り向くと、黒いサングラスに着古した感じのジャケット、短く刈り込んだ髪に無精ひげといった、いかにもコンサート会場周辺でよく出没している風体の男だ。 「おにーさん、今、並ぶの嫌だって、だだこねてたでしょ、そんなあなたに」  男は内ポケットから、チケットらしきものを3枚出した。  ババーンというBGMが聞こえてきそうな勢いで、それを6人の前にこれ見よがしに突き出す 「幻のレアアイテム、超ファストパス!」 「怪しい」  瞬時に淳が却下しかける。 「最前列ですぜって言われて買ったら、斜め後ろで、それも機材の陰で全然ステージが見えなかった時のように怪しい。返せおれの7万円」 「淳、そんなお金の使い方しちゃ、だめじゃん。」  今は過去の淳の無駄遣いについて論じている場合じゃない。 「なんでぇ、その…ちょーはっとぱあ…ってのは」  犬夜叉が口をはさむ。珍しく興味をそそられたらしい。 「よくぞ、聞いてくださいました」  男は、店頭で『良く切れる包丁』を売っている人、またはテレフォンショッピングのベテラン俳優みたいな口調になって続ける。 「アトラクションにはたくさん乗りたい、でも、ならぶのは嫌、それはみなさん考える事ですよね。」  うんうんとみんな頷く。 「そんなあなたに、この『超ファストパス』!なんとこのチケット一枚につきお二人様が、ねずみーらんどとねずみーしーの全てのアトラクションに並ばずに乗れる、という、夢のチケットなのです!その上有効期限はなんと3日間!」 「うさんくせー」 「そこの、おにーさん、お疑いですね。無理もありません。なぜなら、このパスを手に入れるのには条件があるのです!」  6人は顔を見合わせる。条件ってなんだろう。  年齢制限?身長制限?体重制限?  それとも、ものすごく高かったりとか…。金花の頭の中に、お金、お金、お金という文字が浮かんでぐるぐる回り、思わず叫びだしそうになったその時、男が条件を提示した 「これから、行われる3種目の競技会に出ていただいて、各種目に優勝した方に一枚ずつこのチケットがプレゼントされるのです!」 「…てめえ…うそじゃねえよな…」  淳が男を睨みつけている。顔つきがいつもと明らかに違っている。据わった目がコワイ。 「もし、うそだったら、タダじゃすまねえ。草の根掻き分けてでも見つけ出して、ギッタンギッタンにしてやる」 「おじさん、淳、こー見えてもケンカ強いよ。」  こー見えてもってなんだ? 「うっうそじゃないですってばあ」  男は怯えた声を出した。自分はお仕事で、やっているだけなのにー。そりゃ見た目は怪しいけど、これでも会社に雇われたちゃんとした社員なのだ。 「じゃ、なんで公に、こういうチケットがあるって公表してねえんだよ」 「そ…そんなことしたら、競技会に人が殺到して収集がつかなくなっちゃうじゃないですかあ。私の役目は、本当に並ぶのが嫌いそうなわがままな…いやええと、お時間のない、それでいて、こういう企画に乗ってくれそうな単純な、…ええとそうじゃなくて、ご協力的な馬鹿…いやいや、お方を探し出すことなんですう」 「なんか、いろいろ聞こえたんだけど」 「そっ空耳ですう」 「参加になにか条件あるの?」  由利香が、さっきから気になっていたことを口に出す。 「参加費がいる、とか?」 「金がかかるのは嫌だからね。」  金花がすかさず口を挟む。 「でも、こういうのって大抵、法外な参加費が必要だったりするのよねー。もし金が必要だっていうんなら、こいつ締め上げてタダにしてもらうって手でいくか…」 「たったっただですううううっ」  男は涙声になっている。小さな声で 「とんでもねえやつらに、声かけちまったなあ」  とつぶやくのが聞こえる。

 ねずみーらんどの一角に設けられた、競技会場では、人がちらほら集りかけてきた。 どうやらアトラクションの一環として行われるらしい。ただし、どうやって出場者が集められたかは不明。 「競技ってなんだろうねー」  由利香はやたらとわくわくしている。 「やっぱ、歌と踊りとかかなー。もう一個はえーと、ねずみーらんどカルトクイズ」  踊りとかだったら、誰が出るつもりなんだろう。  金花と柚莉は一応お城育ちなので、たしなみとしてワルツくらいは踊れる。でも、ここで言う『踊り』ってのは絶対そんなのじゃないし。オクラホマミクサーや、マイムマイム、あるいはドジョウすくいやソーラン節などでももちろん、ない。 「あー、そーゆーの、おれパス」 「えー、もとはと言えば、淳がわがまま言うから、こーなったんだよ。淳は必ず何かに出なきゃダメだよ。」  確かにその由利香の意見は正しい。  あのまま素直に並んでいたら、今頃もう順番が来ていたかもしれない。 「やっぱ、帰ろうかな、おれ」 「だめだってばー。淳っ!おすわりっ!」  淳は一瞬ビクッとし、固まった。…が、すぐに我に返って、由利香の頭をコツンとたたく。 「あほ、効くわけねえだろ、そんなもん」 「ちぇっ、やっぱ、だめか。かごめちゃんみたいにいかないや」  かごめの『おすわり』が通用するのは、犬夜叉が『言霊の念珠』を身につけているからで、別にかごめが何かの魔法を使えたりするせいではない。  隣では、その犬夜叉がどきどきしている。 「こ…こっちに効くかと思った…」  誰かがお座りと言う度に、地面に叩きつけられていたらたまったものじゃない。とてもじゃないが、犬の散歩の時間帯、つまり、朝夕は外を歩けない。犬夜叉は人の何倍も耳がいいからなおさらだ。  ちなみに、当のかごめはと言えば、またしてもケータイに見入っている。 「えーお集まりのみなさんに、ご説明申し上げまっす」  いつの間にかその場には、20〜30人くらいの参加者が集っていた。  さっきの男とは別の、ひょろりと背の高い男がみんなの前に現れ、説明を始めた。ド派手なラメ入りオレンジ色の背広に、黄緑色のやたらと大きな蝶ネクタイをつけている。場末のドサ回りの演歌歌手について歩く、これまた売れない司会者のようだ。 「先ほども申し上げましたとおり、競技は3つでっす。其々に『体力』『知力』『魅力』を競っていただきまっす」  ザワザワと場がざわめいた。『体力』と『知力』はよく聞くが、『魅力』っていうのは珍しい。 「体力はこれで競っていただきまっす。巨大Pitchy投げ〜」  アシスタントらしい、バニーガールのお姉さんたちが5人がかりで、多分コンクリートか何かでできた全長3メートルはありそうなPitchy人形を持って現れた。 「これを投げて、遠くまで飛ばせた人が勝ちと言う単純極まりない競技でっす。ちなみに重さは約100キロありまっす!」  単純と言う言葉に、一行の視線が犬夜叉に集る 「決まりだな…」  淳がつぶやく 「なっなんでえっ!なんでおれに決まりなんだよっ。淳っ!てめえだってオトコだろっ!」 「おれ、パワー系じゃねえもん。言ったじゃん、握力10キロって」  さっきは確か5キロって言ってた。 「そうだよ、犬夜叉しかいないよ。淳には無理だもん」  もしもーし、もう一人オトコの子っていたような気もするんですがあ。 「そして、知力はこれでっす!ねずみーらんど、カルトクイズーっ!!!!」  あ、やっぱり。  ファンファーレと共に、いつの間にかセットされていた、カーテンが開き、奥からよくテレビで見るような、クイズの回答席が現れた。各席には、早押しボタンがセットしてある。 「100問のクイズに早押しで答えていただいて、トップになった方が優勝でっす!」  これまた分かり易い。 「これはアンタがやれ、柚ちゃん。」 「えっ、ぼく?」 「当たり前でしょ、他に誰に出来るって言うのよ。」  柚莉は感極まったような表情で、金花を見た。 「コノ…そんなにぼくを頼っているんだね?」  別にそういうわけじゃない。多分、かごめはケータイに見入ってるし、淳は適当に答えそうだし、由利香は興味のあることしか知らなさそうだからだ。ちなみに、自分でやるのは面倒なんだろう。  まあ、とにかく柚莉のやる気は出たみたいなので、金花も特に否定はしないけど。  柚莉は荷物の中から『これであなたもねずみーらんどの超達人』という本を出して、さっそく時間まで知識の確認を始めた。金花に感心してもらおうと思って、買い込んで覚えた本だ。こんな風に役に立つとは思わなかった。  これで、2種目は決まった。…って、淳なにもやってないじゃん。  でもって、『魅力』測る競技って一体… 「そして、3種目目、『魅力』を測る競技は、これでっす!」  アシスタントのお姉さんが、持って現れたのは… 「…う゛っ…」  淳が息を飲んで、それを見つめた。目が…離せない。 「だっ…抱きてぇ」  思わず口から出た言葉を聞いて、柚莉はすかさず反射的に金花に耳栓をつける。それからふと考え直して、慌てて耳栓を外した。 「びっくりしたー、じゅんがそんなこと言うから、ついまたアブナイこと言ってんのかと思ったよ…。」 「うっ、うるせええっ!!」  それは、可愛いコロコロした柴犬の仔犬だった。お姉さんに抱っこされておとなしくゆっくりシッポを振っている。  茶色のつぶらな瞳が、うるうるとこっちを見ている。 「クイズをやってる間、それぞれ仔犬と遊んでいただきまっす。その後、コースのあちら側から呼んでいただいて、真っ先に仔犬が駆け寄って来た人が勝ちでっす!つまり仔犬に、自分の魅力をアピールするかという競技でっす!」 「おれやる、やる、絶対おれがやるっ!」  意気込む淳に、かごめと柚莉は、『そんなキャラだっけ?』とでも言いたそうな怪訝な目を向ける。  由利香は当然、淳が以外にも動物好きなのは、知っている。金花と犬夜叉もある事情から知るハメになった。知らない人には、淳と可愛い小動物というのは、奇異な組み合わせに映るのかもしれない。蛇とかトカゲならいざ知らず。でもって、ますます意外な事に、動物からも結構好かれたりする。行きずりの初対面の野良猫と、一時間も話しこんでいたのを、目撃されたとかされないとか。 「淳フェロモン出てるからねー」 「なんだあそれ」 「ひととか、動物とか魅きつける力だよ」 「けっ!そんなもんが…」 「あ、試す?」  淳は言って、ちょっと斜めに構えて犬夜叉の目をじーっと見つめた。  1分…2分… 「…」  犬夜叉はちょっと頬を赤らめて目を逸らした。胸を手で押さえて 「うそだ、ちがう…ぜってーちがう」  とぶつぶつ言っている。 「ふっ、ふ〜ん、勝ったぁ。これで、犬に効くって事は立証済みだな。よっしゃあ、待っててねー♪コロちゃん♪」  勝手に名前までつけてるし。  それに、犬夜叉は確かに半分犬妖怪だけど、別に犬の血は入っていない。 「では、第一種、体力自慢、れっつごーでっす!!!参加者はお集まりくださっい!」 「行けっ!犬っ!」 「お…おうっ!」  犬夜叉はなんとなく淳の方を気にしながらも、声に促されてステージに上がった。 「犬夜叉ーっ、がんばってねー。」  かごめもさすがに、ケータイから目を離して応援している…と思ったら、ただ単に電波が入りにくいだけらしい。いくらなんでも、犬夜叉がちょっと可哀相。  100キロのPitchyを持ち上げるのはなかなか大変そうで、動かすことも出来ない人が続出した。 「なっさけねえの。力自慢じゃねえのかよ」  淳は自分の事は棚にあげて、そんな事を言う 「淳だって出来ないでしょ」 「動かすくらいできるよ、多分。蹴ってよけりゃ」  蹴るのはルール違反だと思う。 「あ、ほら、犬夜叉だよ」 「ほんとだ。がんばれー犬っ!」  だから…投げキッスとかするなって、力抜けるから。  今のところ、最高記録は50センチ。やっぱり生身の普通の人間に100キロはあまりに重い。  犬夜叉は、100キロPitchyにつかつかと歩み寄り、ひょいと持ち上げた。あまり力は入れていないようだが、まるでPitchyが急に軽くなったように見える。さすが馬鹿力の半妖。  おお〜っという歓声の中、犬夜叉はPitchyを高々と持ち上げ、投げ飛ばした。  きれいな放物線を描いて、ねずみーらんどのシンボルが飛んでいく。半ば感心、半ば呆れて観客はそれを見守る。ステージのそでで成り行きを見ていたアシスタントのお姉さんたちが、きゃあきゃあ逃げ惑う頭の上を遥かに越え、会場の囲いを突き破り、外の通路を歩いている一般来場者の目の前に逆さまに突き刺さった。  いきなり飛んできた巨大Pitchyに、 「きゃああああっ!」  という悲鳴が上がる。 「コワ…誰かに当たんなくてよかったねー。ケガするよね」  由利香がのんきに言うけど…死ぬって、ふつー  お姉さんたちがあわてて周りにぺこぺこ頭を下げながら、Pitchyを拾いに行く。ついでに距離も測定する 「にっ…にじゅうさんめーとる、でっす!新記録が出ましったあああっ!」  司会者の絶叫が響く。ちなみに開園当初から今までの最高記録は1.4メートル。 「さすが犬夜叉ね。」 かごめはやや呆れ気味に言った。 「馬鹿力って、ああいうことを言うのよねー。」 「うーん、私も見てたら、ちょっと試してみたくなってきたなー『体力』。」  金花が呟いた。そういえば、金花も結構力持ちだっけ。 「えー、でも、23メートルはないでしょ?」 「え、でも私、城においてある銅像を一人で運んだことあったけど。あれって確か100貫くらい…」  だんだん乗り気になってきた金花に、本をめくる手を休めて柚莉が言う。 「やめたほうがいいよー。コノの場合、飛ばした後確実にバテる。」  それもそうだ、と諦めたのか、それとも興味がそれたのか、金花はそれ以上何も言わなかった。そんな金花を見て、柚莉は安堵のため息を漏らす。もし金花に倒れられでもしたら、それこそホントに帰らなくちゃならない。  残りの参加者も次々と挑戦するが、持ち上げるのが精一杯といったところ。 「優勝は、犬夜叉さんでっすうううっ!」  司会者が犬夜叉の右手をとって、天に向かって突き上げる。  わーっと拍手が起きた。このくらい大差がつくと、文句の出ようもない。  犬夜叉は大歓声の中、チケットを受け取って戻って来た。 「おう、勝ったぜ」 「お疲れ様―」 「犬ちゃん偉い!」 「犬夜叉、頑張ったわねー。はい、カップ麺」  かごめはどこからかカップ麺を取り出した。  ちなみにお湯は、柚莉提供。  犬、すっげー。カッコよかったぜぇ」  淳が抱き付いて、頬にキスする。いいかげんやめろよ、おまえはっ。 「第2種目めと、3種目めに参加する方はステージにいらして下さっい」  前から司会者の声がする。 「あ、呼んでる、行こうぜ柚莉」 「コノ〜行ってくるよっ」  淳はさっさと柚莉の手を引っ張って行ってしまう。後に残された犬夜叉は… 「あ、硬直してる」  由利香が、目の前で両手を振る。反応しない。つんつんとつっつく。反応しない。長い銀髪を引っ張る。反応しない。  とうとう犬夜叉が被っている帽子を取って、背伸びをしながら犬耳をぐいぐいと引っ張った。 「てめえっ!」 「あ、動いた。」  由利香は犬耳を隠していた帽子を、また犬夜叉の頭に載せた。犬夜叉はほっと一息ついてから、  「ユカ、どーにかしろ、あれ」  まだ頬を赤らめたまま、カップ麺を一口食べ、ステージの上の淳を指差す。 「ええ〜っ、無理だよ。淳はああいう生き物だから、周りが慣れるしかないんだよ。大丈夫だよ冗談だから」 「当たり前だろうがっ!」


続きを読む