1.12.Merry Christmas and A Happy New Year. 〜part2

 
 
  
        
「出掛けてなかったのかおまえら。つまんねーの」 「ノリとチルチルも食べる?淳の焼いたケーキ」 「いらねー」 「食べるっ!」  同時に2人が叫んだが、由利香は『食べる』ほうだけ聞き取り、二切れ切り取り、お皿に載せて2人に渡す。  歴史は恐る恐るケーキの飾りに目をやる。厚めの筒状の『何か』。じーっと眺めてみるがなんだか分からない。 「上に載ってんの…ナニ?」 「淳の作ったちくわ」 「おミズのセンスって…」  健範が自分のケーキの上を指差す。 「これは?」 「枯木」 「うげ。そういうの、ケーキの飾りにするかぁ?普通」  感想が露骨だ。歴史はそんな健範の言葉を遮るように 「あ、でも、美味しいよ、おミズ、これ」 「チルはいつもおれの作ったもん、美味いって言ってくれるよなあ。それに比べてノリはさあ」 「…甘っ!」  健範もあわてて紅茶を飲む。 「でも、ここは全然甘くないですよ」  マスターは首を傾げる。  もしかして、甘さにムラがあるのか?  そこで思い出した。砂糖って最後に入れた。あまり混ぜなかったかも…。  所詮淳のやる事なんてこんな程度だ。 「確かにちょっと甘いねー」  由利香は、淳の皿のケーキを味見しながら言う。 「でも美味しいよ」 「慰めなんて、いらねえ」  激甘か、普通か、もしかしたらほとんど甘みがないか、ロシアンルーレットのようなケーキになってしまった。   これは、失敗というのか成功というのか。とりあえず由利香は喜んでいるから成功か、と自分で自分に言いきかせる。  でも、自分の分は食べられたもんじゃない。食べるのは諦めて、フォークを置いて頬杖をつく。 「で、おまえらおれ達探してたの?」 「うーん、そういうわけじゃないんだけど。今年のクリスマス特に計画なかったじゃない?去年はみんなで騒いだけど。だから、結構ペアでいなくなってたりして、意外な組み合わせで消えてたりしないかなあって」 「…ヒマ人」  ヒトのことばっか構ってないで、自分の事考えろと言い掛けて、それこそ墓穴だと思ってやめた。  まるでそれを見越したように健範がことばを続ける。 「で、おミズとユカもどっかでデートでもしてんのかと思ったら、こんなとこで地道にケーキ焼いてるし」 「えーでも、ペアとか言ったって、ミネちゃんとこと、由宇也のとこくらいじゃない」  淳のケーキの皿を自分の方に引き寄せながら、由利香は首を傾げる。由利香にとっては甘すぎるほどではないらしい。  確かに公式カップル(?)は、純と愛、由宇也と優子だけなんだけど。 「あっまああいっ!」  健範と歴史が声を揃える 「温ちゃんも朝からいないし」 「あと、ヒロと蘭ちゃんがいっしょに出てくの見た」 「あ、それ、違うよ、きっと」  由利香は淳の皿のケーキをあっという間に全部たいらげ、さらにもう一切れ切り分けようとしながら 「多分淳のファンクラブの集会だよ。ヒロが名誉会長で、蘭ちゃん名誉副会長なんだよね」 「なんじゃそれ。おミズほんとかよ」 「おれは知らねえよ」 「あと、わかんないのは、兼ちゃんと、かおちゃんもいないんだよねー。あの2人、付き合ってんの?」 「うっそー、知らないっ」  あとで、実は別々に出掛けていたことが判明する。それぞれCクラスにいつの間にかお相手ができていたらしい。 「っつうか…みんな手近なところで、済ませすぎじゃねえの。」 「おミズに言われたかねえよな」 「うん」  健範の言葉に歴史が力強く頷く。 「じゃ、いるのは…」 「ここの4人と、タケちゃんと、尚」 「武かぁ、あいつもわかんねえよな。昔っから噂とか立ったことねえんだろ」 「うん。なんかねえ、関心ないみたいだよ」 「ホモとかいうわけでもねえよな」 「それも聞かない。」 「ユカの事、好きだったんじゃないの?すっごく。んで、おミズに取られちゃったから、どうでも良くなっちゃったとかねー」  歴史が真顔で淳と由利香を見比べながら言って、にっこりする。こういう事を平気で口にするから、歴史はたまに注意しなくちゃいけない。さすがに淳も虚を付かれたような顔になり 「チル…、なんつー事を…。フォローのしようがねえ発言するんじゃねえよ」 「だって、そう考えると、辻褄合うんだけど」  オトコ3人で考え込むが、当の由利香は気楽な声で 「そんな事はないと思うよー。だって私の事好きだったら何時でも言えたじゃない。ちっちゃい時からずっといっしょだったんだしさ。タケちゃん、そんな感じじゃないよ。ずっと優しかったけどさ」  とケーキを頬張る。それを横目で見ながら 「なんか…ちょっとだけ、そうかもって気が」  健範が小声で歴史に言う。 「ユカ、ちょっとそういうの鈍感だからねえ。今よりずっとコドモだったし」  歴史も答える。2人とも大した経験もないくせに。しかし歴史はにこにこして 「いっしょにいるから、いつでも好きって言えるとは限らないよねえ、ね、おミズ」 「それ、どーゆー意味だよ」 「べっつにー。」 「ねえ、タケちゃんと尚いるんなら呼んできて、いっしょにケーキ食べようよ。せっかくだからさ」  ロシアンルーレットだけど。 「おれ、呼んで来る。」  淳が立ち上がる。 「ずっとここにいて疲れたから、散歩がてら」  扉を開けて、階段を上る。人のいない4階建ての建物はひどくガランとしている。  ここを、健範と歴史は人を探して走り回っていたのかと考えると笑える。  武の部屋をノックする。いつものような穏やかな表情で武が出てくる。 「『ナオ』で残ってるやつらでケーキ食ってんだけど、来る?」 「今度は何始めたんだ?いろいろやるよねえ、おミズ」 「ケーキ食ってるだけだって」 「うん、じゃ行かせてもらう。あとでね」  尚の部屋をノックすると、こっちは険しい表情。淳の顔を見ると、反射的にドアを閉めようとするが、一瞬早く淳がドアに足を挟む。…タチの悪い新聞勧誘員みたいだ。 「ケーキ食いに来いよ。おれが作ったんだぜ」 と言うと、きれいに形の整った眉をひそめ、いぶかしむような表情になる。 「何分前に食った?」 「30分ちょっと」  30分たてば、大抵の毒は体に回る。つまり、30分経ってぴんぴんしてれば、まず安全。 「…じゃ大丈夫か。」 「どういう意味だよっ!」  悪態をつきながらも結局尚も付いてくる。さすがに彼もクリスマスイブに一人でいるのは空しいと思ったのか。  武はちょっと遅れてシャンパンを持って現れた。 「部屋にそんなもん隠してたのかよ」 「こんな時のためにね」 「おまえも、けっこう喰えねえよな」  シャンパンを開けて、7人で少しづつ分けて注ぎ、乾杯をする。  マスターがいつの間にか料理も用意してくれていた。 「酒…足りねえ…」 「また歌う気か?」  げしっ。健範は淳に殴られてテーブルに突っ伏した。 「そういえばさあ、あのドレスどうしたのかなぁ」  ぴき。  何気なく言った由利香の言葉に、淳が固まった。忘れてたけど、そう言えば…  靴はステージで脱ぎ捨てて来てしまった。  ストッキングは脱いで投げていた、らしい。でも、あとは知らない。  武が表情を変えずに、なんでもないことのように言う。 「パーティーの後、闇でオークションしてたの見たんだけど、その中にあった」 「タケちゃんすごーい、どこでやってたの?」 「みんなが部屋に飲みに集って行った後、会場に残ってたら、面白い事やるから来ないかって声かけられた。付いてったらダニーの部屋でオークションやってて。メダルとか売っちゃうやつはいるし、あと女テニで優勝したシェリーのスコートとか」  確かにあの夜、皆で飲んで騒いで雑魚寝した中に武はいなかったけど、そんなところに行っていたなんて。  ところで、もし由利香がテニス優勝してたらスコート売られたのか?誰が買うんだろう。 「ドレスすごい高値がついてたよ。ダニーは、もらって来たって言ってけど、おミズ覚えてない?」 「覚えてるわけねーだろっ!」  自慢じゃないけどあの夜の記憶は、本当に微々たるものだ。記憶がない間、何をしていたと言われてももう多分驚かない。  武の言葉を聞いて由利香がポンと手を叩く。  「あ、そっかあ、そこに行ってたんだあ。ダニーが来て、ドレス返して欲しいって言うから、渡したあとどうなったかと思ってた」 「ユカが渡したのかよっ!」  由利香は不満そうに反論する。 「淳に聞いたら、そんなものもう見たくもねえっていったじゃない。ガーターベルトもくれって言うから、これは買ったものだからタダじゃだめって言ったら、買った金額の倍くれたからあげちゃった」  けっこうちゃっかりしている。  武はさらに言葉を続ける。 「それに、ユニセフに寄付するって言ってたよ。世界の平和のために役立ったと思えばいいんじゃないかなあ?」 「ユニセフぅ。ぜってえ信じねえ」 「10万単位だったよ、すごい貢献。」 「じゅっじゅーまんっ!?たんいっ!?てことは20万とか30万っ!?」  一瞬ガンガンドレス着て、ガンガン脱いで売ろうか考えてしまう。  …ブルセラか?たしかにその手には売れるかも。脱ぎたては高い…。 「すっげー、おれのカラダって値打ちものっ!」  ちょっと浮かれて叫ぶと、 「何言ってるか分かってるか、淳?」  尚が白い目でじろっと見る。  時々真剣に身内である事を否定したくなる。 「でも、ガーターベルトは気がつかなかったなあ…」 武はなにげなく呟いた。ダニーが持って帰ってたのに、売りに出されてなかったって事は…?考えると怖い。 怖い考えを振り払うように、淳は頭を一振りすると、妙に明るい声で 「あ、そーだ、一部には言ったけど、大晦日に鍋やるからみんな協力しろよな」 「鍋かあ、いいねー。Φ来てからやってないや」   「チル、ほんっと素直でカワイイよなー。それに比べて」 と健範を見る 「なんだよ、何も言ってねえだろっ!?」 「じゃ、来いよ。会費制な。1000円」 「足りんのか?」 「さあ」  どんぶり勘定の淳に、そんな細かい事が分かるはずがない。  足りなかったら足りなかったで、どうにかなるかくらいにしか考えていない。 「やっぱ鍋は畳だなーと思って、有矢さんに交渉して柔剣道場借りた。4丁目の店にでかい鍋がある店があってそこのを2,3個借りてくることになってる。あとコンロも借りる。」  いつの間にか着々と準備を進めていたらしい。 「鍋、タダで貸してくれんのかよ」 「タダじゃ…。ま、でもただみてえなもん」  なんとなく歯切れが悪い。 「何が交換条件なわけ?」  ちょっとだけ言いにくそうに、みんなから目をそらして 「1晩、店で働けと。」 「店って?」 「いや、ふつーのホストクラブみてえな…お仕事はお店の中だけ、持ち帰り、出張ナシ…女装もナシ」 「どーゆー類の店に出入りしてんだよ」  尚が今度は頭をかかえる。  真剣に、きょうだいの縁切ったほうがいいかもと考えるけど、これだけ顔が似てるとどうしようもない気もする。  せめて自分はおとなしくしてて、淳がうろついている場所には、なるべく踏み込まないようにしようと決める。 「だって、庭みてえなもんだし、あそこ。ピンからキリまで健全から超エロい店まで、ほぼ全店にわたり知り合いが…」 「淳すっごーい」  由利香の感嘆の声を、あわてて尚と歴史が否定する。 「いや、ユカ、全然すごくないから。」 「そうだよ、ユカ!おミズを男の子の基準にしちゃだめだよ」 「やだーしてないよー」  由利香はにこにこしているが、かなり危ない。  
  
 

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