第1話 ラッキー???な抽選会

 
  
    
     ここは、とある町の秋の大抽選会場。  カラカラカラ…………コロン。 「うにゃにゃにゃにゃにゃっっっ」  コロコロコロ。  耳としっぽだけ黒い真っ白な猫が、抽選器を回した。玉がひとつ転がりだす。…と思わずそれにじゃれついて玉はどこかへ転がっていってしまった。まあ猫だからしょうがないよね。  げしっ!  いっしょにいた女の子がすかさずツッコんだ。デニムのミニスカートに星の模様の黄色いフリース、同じ色のレッグウォーマーをしている。髪は肩くらいで、一箇所をゴムでしばっている。猫は不満そうな声をあげた。 「むー。だって、たまがぁ」 「玉がぁじゃないでしょ、みや! せっかく1等の生まぐろ一匹当てようと思ってたのに! 玉がなくなったらまぐろもらえないじゃない! 」 「むー、どーせ、てぃっしゅだよぉ」 「そんなことないよ!今チラッと光ったの見たもん。絶対1等の金の玉だよ! みや、台の下もぐって探して来なさい」  『みや』と呼ばれた猫はまだ不満そうに、それでも台の下にもぐって行った。  係の真っ黒なラブラドールレトリバーはニコニコして待っている。ニコニコしてるんだけど、舌が出てるからちょっとまぬけだ。 「あったよぉ、むすめ」  みやが玉をくわえて出てきた。確かに光っている。むすめとよばれた女の子は玉を元気にレトリバーに渡した。  この白猫と親子だったのか? 「はいっ!まぐろちょうだい」  レトリバーはびっくりしたように玉を受けとると首をかしげた。 「おっかしいわん。こんな玉入れた覚えないんだけどなー。え?こ…これはもしかして!?」  光っている事は光っているけど、玉の色は金色ではなく虹色だ。それに何だか他の玉よりも大きい。  レトリバーはどこかに携帯をかけ始めた。何故かあつがりさんのストラップがついている。 「もしもしー、抽選会場わん。あのぉ、これこれこーゆー訳なんですけど。はぁーそうですか。はーいわかったわん。やっぱりねー」  二人はこそこそ内緒話をしながら、心配そうにそれを見守っている。 「だから、みやがじゃれたりしてないで、すかさずまぐろもらっちゃえば良かったんだよ」 「むー、だって、たまがぁ」 「うるさいわねっ」  げしっ! 「むー」 「あーあ今年もティッシュかー、ティッシュなんてそのへんで配ってんのにさ」 「おおあたりぃ〜!!! 50年に一度のおおあたり〜!!! 」  レトリバーはおもむろに台の上のベルを手に取ると、町じゅうに響きわたるような大きな音でガランガランふりまわした。音につられて買い物客がたくさん集まってきた。 「な…なに、50年に一度って?」  女の子はびっくりして、思わずみやを抱き上げた。いつもは「むー」と文句を言うみやもまわりの雰囲気に圧倒されておとなしくしている。 「こほん」  レトリバーは小さな咳払いをしてもったいぶった様子で話し始めた。緊張しているらしく口調が変わっている。 「そもそもですね、この商店街の秋の抽選会は50年前に始まりました。その時の特等賞がこの玉だったのです。ところが不思議な事に特等は出ませんでした。終わったあと玉は残っていなかったにもかかわらずです。サギじゃないかという話になって当時の商店街の責任者は泣く泣く町を去るはめに」  そこで、レトリバーはちょっと涙をふいた。集まっている人たちの中にも当時を思い出して泣いている人もいる。全くこの町の住民はみんなノリ易い。 「それから、毎年抽選会は行われましたが、開始の時はちゃんと混じっている玉が、どういうわけか出てこないのです。何年もそれが繰り返され、とうとう関係者の間では『幻の特等』と呼ばれるようになりました。それが! 今年! 50年の歳月を経てよみがえったのです! なんと言う奇跡でありましょうか! 」  おおっ! といっせいにどよめきがあがり、われんばかりの拍手が起こった。  「な…なんか、スゴイんですね。でもなんで急に出てきたのかな」 「そんなのしらないわん。きっとどっかにひっかかってたわん」  女の子は思わずこけそうになった。 「それでいいわけ? 」 「別におっけーわん。推理小説じゃないし。あれ? 何言ってるんだわん」  レトリバーは意味不明なことを口走った。女の子はそれは無視して 「まっいいやどーでも。ところで賞品は何なの?」 「よくきいてくれたわん。賞品は…………」  そこでまた、先ほどのベルを持ち上げて振り回す。 「ごーかグルメな海辺の宿4人様2泊ご招待でー―――す! 」 「わーい! やったー」  女の子はみやをほっぽり出して飛び上がった。みやはピュ−ンと飛んで行ったがどこか遠くでドスンバタンと何かが壊れるような音がした後、何事もなかったような顔でもどってきた。慣れているらしい。  女の子がうかれているとレトリバーの携帯が鳴った。なぜ着メロがラジオ体操第2なのかは分からない。 「はぁーい、もしもしー。えー! そうなんですか、それは困ったわん」  携帯を切ったレトリバーは困った顔で言った。 「あのぉーそのグルメな宿、ずーっと前にバブルのあおりでつぶれちゃったんですって。替わりに海苔一年分でどうですか? 」 「むーラッキー。おっけーだよぉ」  げしっ!   げしっ!!  もひとつ  げしっ!!! 「むーーーーーーーーーーー」  みやはまたどこかへ飛んでいった。  周りに集まっていた人たちもオチがついたところですこしづつ帰りはじめた。それにしても50年に一度の大当りが海苔一年分なんてあんまりだ。 「ちょっとーどうにかなんないの?それってあんまり。それだったら1等のまぐろの方が、ずっとましだよ」 「でも、1等は1等の玉の数だけしか用意してないわん。誰かがもらえなくなるわん」 「だったら1等の玉一つ出しちゃえばいいじゃない。そうだ! そうしようよ! 」  女の子はいきなり抽選器をこじ開けようとしたが、何がどうなっているのかわからない。どうやら何か道具がないと簡単には開かない仕組みになっているらしい。 「えーい! じゃこうしてやるー」  女の子はいきなりめちゃくちゃに抽選器を回し始めた。どうやら1等の玉を当てて出してしまうつもりらしい。  しかしでてくるのは7等の白い玉だけ。 「わーん、そんな事されたら困るわーん。第一まだ1等の玉は入れてない…わわわしまったわん」 「ぬぁーんですってぇ」  それを聞いた女の子の目がギラっと光った。 「なあにぃ? じゃあ始めっからまぐろは当らなかったってわけぇー? 乙女の純情を踏みにじったわねー」 「え…えと、乙女の純情がまぐろっていうのもちょっとふつりあいな気が…わん」 「問答無用。ファイヤーーーーーーッ!!!!」 「ギャわー――――ん!!!!」  あっと言うまにレトリバーは真っ黒に!あ、もともと真っ黒だったっけ?  そう、女の子は実は魔道師のたまごだった。ま、たまごなので大した威力はなく、ほとんどコケおどしていど。それでもレトリバーをおどかすには十分だったらしくまた急いで携帯をかけ始めた。 「むーまたやったの、むすめ」  いつのまにか戻ってきたみやが女の子に言った。ちょっと鼻の頭がすりむけている。 「おこりっぽいのはだめだよぉ」 「だって、海苔なんて喜ぶのはみやくらいじゃない」 「むすめも、のりはすきなくせにー」 「うるさいわねっ」  げしっ! っとしようとした時、レトリバーが口を開いた。また、口調が変わってる。 「あのー。今話し合ったんですけどやっぱ海苔はあんまりなんで、温泉にご招待しようということになりました。だけど旅費は出せないんで、自力で行って下さい。4名様2泊3日です。ここが温泉の場所です」
      -―――― みやたちは 温泉のチケットを手に入れた ――――       -―――― 地図を手に入れた ――――
「あーそれから、その玉も記念にお持ちくださいとの事でした。あーもう今日は抽選は終わりにするわん」
      ―――― 虹色の玉を手に入れた ―――――
「むーみやたちもおうちにかえろうよー」 「そうだね、なんか疲れちゃったよ」  二人は家に帰る事にした。                                


   
  
 

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