第3話 でかけよう!

 
  
    
    初期の装備と持ち物
         武器        防具         アクセサリー1     アクセサリー2  みや    自分の爪(攻1) 白い綿のかっぽうぎ(防2)  緑の首輪(ラブリー度1)  まな  シャープペン(攻1)  レッグウォーマー(防1) 迷彩の髪飾(ラブリー度3)   ビーズの指輪(魔1)  くぬぎ   自分の爪(攻2)     自分の毛皮(防1)  赤の首輪(ラブリー度5) 
    持ち物 地図、温泉のチケット、虹色の玉、サイン帖         かつお節(体力回復) 5コ    ミルクティー(魔力回復) 3コ
 
「あーいい天気だねー」  次の日は本当にいい天気だった。まさに旅立ちにはぴったり!  3人は気持ち良く、鼻歌まじりに道をあるいていた。道の両側は森になっている。森といってもそれほど木がぎっしりというほどでもない。木々の間から向こう側が見える程度だ。歩こうと思えば森の中でも歩いていけそう。  3人はそれぞれ小さなリュックサックを背負っている。もっともくぬぎのリュックサックはほとんどからっぽみたいだ。背中でふふわふわと踊っている。それに比べてみやのリュックサックはとっても重そう。でも気にしてないみたいだから、まあいいか。  空は真っ青、雲が2、3個ぽっかりうかんで、小鳥がさえずり、道にはプリンが…え?プリン。 プッ○ンプリンみたいな、スーパーとかに売ってるあまり高くなさそうなプリンが、地面でプルプルふるえている。ちゃんと茶色いカラメルソースもかかっている。 「くぬぬっ!くーちゃんは、たべるよぷりんをねっ!」  言うが早いかくぬぎはプリンにかけ寄って、ペロンとなめようとした。 が、まなが一瞬早くくぬぎを抱いて止める。 「くぬぎ!だめでしょ、道に落ちてるもん食べちゃ!お腹痛くなるよ」 「えーん、じゃあかつおをちょうだい」  くぬぎは全く関係ないことを言った。 「なんでそうなるのよ、全くくぬぎはぁ」 「あのね、くーちゃんはかつおがすきなの」 「はいはい」 「むー、みやは、のりがすき」 「はいはい」  いやー本当にいい天気だ。風はやわらかくそよいで、小さなかわいい花をゆらしている。そして道にはプリン。  え? 「やっぱりぷりんはくーちゃんにたべてもらいたいんだ!」  くぬぎは抱っこされたままなので、逃げようとじたばたしながら言った。            まなは無視して歩いていく。くぬぎの言う事にいちいち相手をしていたらすぐ日がくれてしまう。せっかくこんなにいい天気なんだから、明るいうちになるべく遠くまで行かなくちゃ。明日も天気がいいとは限らないしね。  本当にいい天気。森の向こうには川がながれているらしい。さらさらとせせらぎが聞こえ、木々の間から水面が光っているのが見える。そして道には 「だぁかぁらぁ!!!」  まなは思わず大声で叫んだ。 「なんでやたらとプリンが落っこちてるわけ、この道は!?」 「むー、きっとぷりんやさんがとおったんだよぉ」 みやはのんびりと答えた。何だ?プリン屋さんてのは? 「へーそれで?」 「でぇ、かいじゅうがでてぇ、あわててにげて、おとした」  げしっ! 「んなわけないでしょっ」 「くぬぬ、くーちゃんはおもうよ。ぷれぜんとってね。だってね、くーちゃんはおなかがすいてるからね」  くぬぎは相変わらず自分に都合の良いようにしか考えない。  だけど、プリンも1つぐらいなら本当にプリン屋さんが落としていくかもしれないけど、3つ続けてというのはいくら何でも変だ。第一プリンって、普通プラスチックの容器とかに入ってない?これじゃぁまるでここの地面から生えてきたみたいだ。
「よおし」  まなはそのへんにあった棒をつかんだ。みやもくぬぎもあてにならない(もともとあまりあてにしてないけどね。猫だしさ)。ここは自分ががんばらなくては!  おそるおそるプリンに近付くと、まなはプリンのカラメルの部分を棒でチョンっとつついた。  プルン。プリンがちょっと揺れたような気がした。  もう一回、今度は横のカスタードの部分をツンっ。  びよぉぉぉぉーーーーん。  とたんに、プリンの一部がまるで触手のように伸び、すぐ近くでにおいをかごうとしていたみやの鼻先にぺしっとぶつかった。 「きゃあぁぁぁーーーーーーっ!!お化けプリン――――!!!」  まなは、棒を放り出し、くぬぎをかかえたまま走り出した。 「むー、まってよー」  みやは鼻を片手でおさえて、急いで後を追いかける。日頃トロそうに見えるけどこういう時は結構早い。  走って走って、まなに追いついた。 「なんだろうね―あれ」 「知らないわよっ!みやの知り合いじゃないの!?」 「くぬぬ、かつおじゃなかったよね」 「あれがかつおだったら、もう一生かつおなんか食べないっ!」 「くーちゃんはたべるよ、びよーんってしないかつおをね」                   

 どのくらい走っただろう。途中にもプリンが落ちていた気がするけど、無視して走った。  5、6個はまなが、け散らしたような気もする。  疲れてもう走れなくなった時、道の端に一軒の小屋が建っているのが見えた。  入り口に「お助けおじさんの家」と書いた蛍光オレンジの看板が立っている。怪しいネーミングだ。  おまけに壁がムラサキ色で屋根が黄色。ますます怪しい感じ。  3人はお互いに顔を見合わせた。どうしよう??? 「くーちゃんかわいいから、がいこくにうられちゃうかも」 「むー、くーちゃんいないとさびしい」 「くーちゃんもくーちゃんがいないとさびしい」 「あのねー」  まなはあきれて言った。 「くぬぎは、くぬぎのところからいなくならないから、淋しくなんないの!」 「でもくーちゃんがいなかったら、ねーねはさびしいよね?」 「うん」 「じゃぁやっぱりくーちゃんもさびしい。えーんえーん。みやぱぱが、くーちゃんがいなくなってもさびしくないっていったー」  またも頭が痛くなりそうな、むちゃくちゃなくぬぎの発言だ。 「こんなにおなかがすいてるのに―、つかれたよー。」 全 く関係ない。それにあんたは走ってないぞくぬぎ。ずっとだっこされてたはずだ。 「むー、くーちゃんかわいそう」 「だからー、くぬぎはいなくならないってば!」 「じゃあ、みやぱぱいなくなる?」 「むーそうかも」
 大騒ぎしていると、ドアが開いた。 「こらこら、人の家の前で何を大騒ぎしてるんだね?」 「ひと?」  まなは思わずききかえしてしまった。  それは、かぶっている長い帽子をいれてもやっと人間の腰くらいまでしか高さがないドワーフだったからだ。  だぶだぶの上着にだぶだぶのズボン、長いあごひげをはやしている。ちょうど、白雪姫にでてくる7人の小人のうちの一人といった感じ。 「悪かったな」  ドワーフはちょっと機嫌を損ねたようだった。 「あ、ごめんなさい。つい」 「くぬぬっ、くーちゃんもあやまるよ。いただきます。」  ドワーフは古典的にずるっとズッこけた。そして得意そうにあごひげをしごきながら 「どうじゃ、ワシのコケ方はナウいじゃろ。テレビをみて研究したんじゃ」 「はいっ!とってもかっこいいです!」  まなは、さっきのミスを取り消そうと、熱心に言った。                   「そういうの、よく昔のテレビの特集とかで、昔のコメディアンとかがやってますよねっ!!」  ほめてないって。  ドワーフはためいきをついた。 「どうやら、おまえさんは嘘をつくのが苦手なようだな。まあいいわ、入りなさい」 「くぬっ!くーちゃんをうりとばす?」  まなはあわててくぬぎの口をふさいだ。くぬぎは、その手をあぎあぎ甘噛みした。どうやら遊んでいると思っているらしい。 「そんな、話をしてたのかね?」 「だってね、みやぱぱがね、きっとわるいひとだからたいじしろっていったの、くぬぬ」 「むー、いったかも」  くぬぎのでたらめな意見に、みやはぼーっと同意する。  ドワーフはまたため息をついた。 「こんなパーティーで森が抜けられるんかの?まあいいわ、わしが心得を教えてあげよう」   パーティー?いつの間にそんなものを組んだんだろう。ただの温泉旅行だったはずなのにね。  温泉旅行だって、くじで当っただけなのに。
 なんか変だなーと思いながらも3人は小屋にはいった。小屋の中は思ったより広くて、こざっぱりとかたづいていた。寒さにはまだちょっと早いが、ストーブが赤々と燃えていて、お湯がシュンシュン音をたてていた。 「さーてと」  ドワーフはまなにはココア、みやとくぬぎにはミルクをくれた。みかけによらず気がつくタイプだ。 「まず、持ち物を見せてもらおうかな」  そこでみやはリュックサックの中から共通の持ち物を出し、床に並べて見せた。 「ふむふむ。地図にチケットに…おおっこれは!」  ドワーフは虹色の玉を手にとった。玉はきらきらと輝いた。 「伝説の玉!」 「あーそうなんですよねー。なんか50年抽選器にひっかかってて、みやが回したらでてきたんだよねー」 「なんとこの猫が!」 「むー、がんばった」  みやはえらそうに胸をはった。 「あんたはじゃれてただけでしょ。んで、あやうく、玉がなくなるとこ…」 「と、すると」  ドワーフはまなの言葉を途中でさえぎった。みやを抱き上げようとしたがちょっと重かったようで、よろよろしただけであきらめた。 「この猫、いや猫様が、伝説の勇者と言う事に」 「えええー―――っっっ!!!」 「くぬっ?ゆうしゃたべられる?」 「むー、たぶん」  げしっ! 「まっさっかーーーっ」  まなは思いっきり否定した。だってみやって、人一倍、いや猫一倍トロイし、食いしん坊だし。  勇者って言うのは、もっとカッコよくて、強くて、勇気があったりしない? それに勇者だったら、勇者にしか身に着けられないよろいとか、かぶととか似合ったりして、武器だっていかにも、魔物を倒せそうな剣とかがピッタリって感じだよね。でも、みやの装備らしい装備って言ったら、白い給食のおばさんみたいな割ぽう着で、どう考えても剣よりは、おたまが似合いそう。 「まだくぬぎの方が勇者っぽいよ」  「えーんみやぱぱが、くーちゃんのゆーしゃをとったー」  くぬぎは、みやに猫パンチをくらわした。なんだか分からないけど、くやしいらしい。 「じゃ、これを見なさい。」  ドワーフは壁にかかったボロボロの紙をゆびさした。  ものすごくへたくそな字でこうかいてあった。
   【7いろのたまにみちびかれしもの     でんせつのゆうしゃとなる     ゆうしゃは たびをつづけ     やがてたまは またねむりにつく】
「むー、ぴったり」 「そうかなー?」  まなはくびをかしげた。なんか誰だって良い気がするんだけど。
「思い起こせば50年前、この前の勇者もこの小屋に寄ったもんじゃ」  「え!うそ?どんな人?カッコよかった?」 「ハムスターじゃった。」 「はぁ?もしもーし?」  ドワーフは遠い目をして続けた。 「ジャンガリアン?いや、ロボロフスキーじゃったかのう。おともに、ばったと、かえるをつれておったのう」  どんな勇者だ!  その時は玉は、偶然買ったハムスターのおやつの中に入っていたらしい。 「風の噂に、森を抜けられなくて、勇者をやめたそうじゃ。地図をよめなかったともきいておる。なにしろ、ハムスターじゃからのう。出口にチーズでもあったら、根性で抜けたんじゃろうが」 「ちずに、ちーずってダジャレかい!?」 「その前は、金魚じゃったのう。」  ドワーフはまなのつっこみは無視してさらに続ける。 「金魚鉢に入ったのを、おとものセントバーナードが首から下げていたんじゃが、喉がかわいて、水をのみ干してしまい、…あれは悲惨じゃったのう」  その時は、その金魚が生まれてきた卵が7色に光っていたらしい。  なんか、この世界の勇者って思ったより大したことないみたいだ。  っていうより、もしかしてぜんぜんエラクないような気もする。  まなはおそるおそる、きいてみた。 「じゃ、さ、勇者であることのメリットって?」 「うーむ」  ドワーフは腕を組んで考え込んだ。
 かれこれ、10分くらい考えていただろうか。くぬぎはあきてしまって、そのへんに飛んでいる小さい虫を追いかけ始めた。みやは、ストーブの前で丸まって、うつらうつら…なんか、ちょっとこげくさい。おーいみやー、しっぽこげてるよー。 「むー、あつい…かも?」 「おお、そうじゃ」  ドワーフはポンとテをうった。 「店で買い物する時に、勇者割引がきくぞ。ただし、本人のみ有効で、一回につき一つ限りじゃがな。」  なんか、新聞の折込に入ってくるファミレスの割引券みたいだ。 「つまり買い物は全部みやがやれって事ね」 「くぬぬ、くーちゃんにかってきて、かつおをね」 くぬぎは都合のいいことはちゃんときいている。 「それから、勇者は同じだけ攻撃されてもヒットポイントの減り方が少ない」  ヒットポイント?  攻撃?  だから、温泉旅行だってば。 「なんで攻撃されんのよ」 「おまえさんたち、会ったじゃろモンスターに」 「くーちゃんはあったよ、びょーんのかつおにねっ」  さっき道で何度も落ちていたプリンはいつのまにかくぬぎの頭の中では、びょーんと伸びるかつおになっているらしい。ドワーフはけげんそうな顔をしてまなにきいた。 「何のことだ」 「えっとー、多分プリンみたいなヘンなものの事かな?」  さすがまな。だてにくぬぎとつきあってはいない。 「あれはプリリンじゃ。友好的なおとなしいモンスターで、こっちから攻撃しなければ、向こうから攻撃して来る事はめったにない。まあこの森のモンスターはおとなしいヤツが多いがの、中には、かなり攻撃的なのもおるから、気をつけることじゃな。」  ヒットポイントというのは、体力のことで、減ると疲れたと感じるらしい。0になると全く動けなくなってしまうので気をつけなくてはならない。倒れそうと感じたら、持っているかつおぶしを食べると元気になれるとドワーフは教えてくれた。 「つまり、みやは疲れにくいから、荷物を全部持ってもらえってことねっ、わかったわ!」 「くーちゃんもみやぱぱに、おんぶされてあげるね」 「むーありがと」 「おれいに、こんどみやぱぱのぶんのごはんもたべてあげるねっ」  いいのかみや。                                       みやが気にしないのでそれはそれでよいとして、 「おお忘れておった、これが一番だいじじゃ」
「え?何?何?」  まなは身を乗り出した。  もしかして、雷系の魔法が使えるとか、すっごいかっこいい魔人が召喚できるとか、じゃなかったら、好きなところに一瞬で移動できるようになるとか。  勇者だったらやっぱり期待するよね。 「勇者は」 「勇者は?」  思わずドワーフの目を覗き込む。その目は真剣だった。  そして、その答えは… 「ごはんを作るのがうまい!!」  げしっ!まなは思わず、ドワーフにケリをいれてしまった。 「あいたた、年寄りになにをするんじゃぁ」  ドワーフはまなにけられたおしりをさすりさすり愚痴をこぼした。目が涙目になっている。 「ぜーんぜん、勇者っぽくないっっっ!!買い物して、荷物運んで、料理してじゃ単なる主婦じゃん」 「単なる主婦とはなんじゃーーー!主婦の仕事を馬鹿にするとバチがあたるぞ」 「なんのバチよ!」  まなはムキになって言い返した。 「うるうる。ねーね、ばちがあたるの?かわいそう。くーちゃんちょっともらってあげる?」 「むーかわいそお」 「そーだ、みやぱぱにかわりにあたっちゃえーあたっちゃえー」 「むーあたっちゃえー」  2匹は2本足で立ち上がってそのへんを踊りながらぐるぐる回り始めた。しっぽで上手にバランスをとっている。もっとも、みやは時々よろけて4本足になっていたけどね。  つられてドワーフもついつられて踊ってしまった。 「当っちゃえー………はっ!」 「あーあー」  まなは全くそれを無視して大きな、わざとらしいため息をついた。 「勇者っていうから期待したのになー。」 「むーきたいしたー」  みやが踊りながら言った。 「そうだよっ!みんなみやぱぱがわるいんだよね!」 くぬぎは踊りながら、みやの首っ玉にかじりついた。ぶらんとぶらさがりながらも、手だけ踊っている。器用。  ドワーフは踊ったことで怒りは忘れてしまったらしい。  もつれ合う2匹と、まだぶつぶつ言っているまなを交互に見ながら、 「こんなパーティーで森が抜けられるんかの」  とさっきと同じ事をくりかえした。                                        


   
  
 

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