第4話 はじめての戦い その1

 
  
    
     その晩はドワーフの小屋にとめてもらい、次の朝早く3人は出発することにした。  一晩中かけて、ドワーフはいろんなことをおしえてくれた。みやは一応勇者で、まなは魔道師(ただし、まだたまご)だがくぬぎの役目はまだよく分からないこと。くぬぎは 「くーちゃんのおしごとは、かわいいことっていってたよ、まえにままがね。」 と、言ってたけど。可愛いのがお仕事になるのかな?  それから、温泉に行くのにはいろいろんなところを通らなくてはならない事。とりあえず、森をぬけるまでは、お店がないので、アイテムは大事に使う事。どんなモンスターがいるかは、全部はわからないが、見かけにだまされてはいけないといった事。  森を抜けるとすぐに村があるので、素通りしないで、必ず立ち寄って、宿屋で休むこと。そうすると疲れていても次の日にはもとどおり元気になるらしい。どこの町や村の人もいろいろな事をおしえてくれるから、ちゃんと話をきくこと、などだ。  話をききながら、くぬぎはまなのひざの上で眠ってしまった。まだ子猫だからしかたないね。みやは一応起きようという努力はしているようだったが、どのへんまで話をきいていたことやら…。
 次の日も、いい天気だった。3人は元気に小屋を出た。  お別れのまえにまなは 「あのさー、家の配色考えた方がいいよ」  と言うのをわすれなかったけど。  くぬぎもちゃんと 「おじーちゃん、あけましておめとー」  と言ったしね。多分お礼を言ってるんだと思うけど。
 もう、プリリンをみても驚かない。そーっと刺激しないようにそばを通りすぎれば、むこうもおとなしくしているって知ってるからね。あとなしいモンスター、そう思ってみると、けっこう可愛く見えたりする。むこうもプルンとふるえてアイサツしているみたいだし。 「ねーね、ぱあてーいつやるのー。くーちゃんはぱあてーがすきっ」 「パーティー?あー違うよくぬぎパーティーって言うのはね」 「むー、おたんじょうびにならないと」 「くーちゃんはきょうおたんじょうびでいいよ」 「くぬぎの誕生日は2月11日でしょ。すっごい寒い日でさ。だから、そうじゃなくって」 「えーんえーん、みやぱぱがくーちゃんのたんじょうびをおいわいしてくれないよー。」 「むーおめでとう、くーちゃん」 「ぷれぜんとにちょうだいっ、かつおをねっ。そいでもって、ぱあて−もちょうだいなっ」 「違うってば−」  まなは笑いながら説明しようとした。   今日もいい天気。花は咲き乱れ、ちょうちょは飛び、道には……… 「チョコプリン…」  そう、プリリンを一回り大きくしたような、茶色いプリンが道の真ん中にドンと置いて(?)あった。  チョコレートソースっぽいものがとろっとかかっている。  くぬぎは近寄ってくんくん匂いをかいだ。 「くぬぎ!猫はチョコ食べちゃだめなんだよっ!」 「くぬぬぬぬ、くーちゃんはたべてないよ、でも」 「でも?」 「くるしいよぉ」  まなはあわててくぬぎを抱き上げた。呼吸がはっはっと早くなっていて、苦しそうだ。 「むーくーちゃんくるしそう」 「ど、どーしよう。」  くぬぎを抱いたまままなはおろおろした。                          「そうだ!」  まなは今来た道を全速力で走ってドワーフの小屋に戻った。
   小屋は驚いた事にもう色が塗り替えられていた。今度は壁が真っ赤で、壁が黄緑、看板がラメ入りムラサキだ。そんな事にはかまわず、急いでまなはドアを開けた。 「おお、またあんたらか?どうじゃ今度の配色は?なかなかナウいじゃろ?」 「それどころじゃないわよっ!くぬぎが大変なの!」 「どれどれ」  ドワーフはくぬぎを一目みるなり 「ああこれは、チョコプリリンの毒にやられたな」  と言った。そして、戸棚から色々な色のグミキャンディーのたくさんつまった大きなビンを出すと、 その中の一粒をくぬぎに食べさせた。  とたんにくぬぎは、ケロっとしてまなの腕からとびおりた。 「くぬっ!いまのおいしいもっとちょうだい」 「良かった−」  まなはほっとして、その場びすわりこんだ。  そこへみやがやっと追いついてきた。 「むーくーちゃんがたいへんだー」 「くぬっ!くーちゃんがもっとほしいっていってるのに、みやぱぱがだめっていったー。えーん」  だから、言ってないって。 「毒なんて聞いてないよー」  まなは文句を言った。 ドワーフはいろんなモンスターがいると言ったので説明は済んだと思ったらしい。どうやらこのパーティーはドワーフにとっては、極端に常識がないパーティーらしい。  それでもドワーフはいろんな色のグミをセットにして、小さなビンに入れて、説明書をつけてみやのリュックに入れてくれた。それから、毒で体力がちょっと減ったのでかつおぶしをくぬぎにくれた。 「むーいーなー。みやも、どくしたい」 「みや、くぬぎは苦しかったんだよ」 「えーん、みやぱぱが、くーちゃんなんかずっとどくになってろっていったー」  言ってない、言ってない。  くぬぎは、みやをぽかぽかたたいた。爪が少し出ていたらしく、みやの鼻にちょっとだけ、すーっと血がにじんだ。よく見ると、みやの鼻は縦横にたくさん傷あとが走っている。  しょっちゅうこんな事があるらしい。  ドワーフは、またも不安そうに 「こんなパーティーで森が抜けられるんかの」  とつぶやいた。 「おじさんありがとっ!それから今度の色もすっごくヘンだよ!」  まなはそういい残して、またみんなは森に入った。
   本当に、良い天気なのだけが救いだ。こんな、近くにこんな危険なところがあるなんて、全然知らなかった。  そう言えば、町のこっち側はほとんど来たことがない。反対側にはバスも一応通っていて、それに乗って行くともっとずっと大きな町もあったりする。まなも何度か行った事があるけれど。映画館とかデパートとか、  そうだ、電車の駅もあったよね、確か。  相変わらず所々にプリリン達が生えて(?)いる。普通のプリリン、チョコプリリン、あれ?ピンクのプリリンもいる。  くぬぎがたーっと走り出した。 「待ったー!!!」  また匂いをかぎかけたくぬぎを、まなが抱きとめた。また、なんかヘンな事になったらいやだ。ドワーフのおじさんの家からももうだいぶ来ちゃったし。 「くぬぬっ!きになるきになるよぉ」 「危ないでしょ!気を付けなきゃ。がまんするのっ」 「においかいでって、ぴんくのびよーんがいってるのー」  じたばたするくぬぎを必死でおさえながら、まなはピンクのプリリンのそばを通り抜けた。  くぬぎはしばらく、くぬくぬ文句を言っていたが、まなが、おもちゃの鳥さんを出してやるとおとな しくなった。どうやら大のお気に入りらしい。しばらく嬉しそうにくわえて歩いていたが、また大事にリュックにしまいこんだ。  しばらく歩いてふと気がつくと…あれ、みやがいないぞ。 「あっれーどこ行んだろう。みやがいないとアイテムが何にも無いのに−」 「くぬっ!くーちゃんのかつおを、みやぱぱがもちにげしたんだねっ」  ちなみに、かつおは入っていない。  かつお節は入ってるけど。  仕方なくまた今の道を戻る事にした。まったく、秋の一日は短いのに日がくれちゃうよね。  さっきのピンクのプリリンのところまで来ると、みやが丸まっているのが見えた。 「みやっ!まさか!」  おっと、こんなところで主人公がたおれちゃったら、戦いが始まったばかりででお話が終わっちゃうぞ。  どうするまな!?                                     
「しょうがない!じゃあこの後は『まなちゃんクエスト』として…」 「くぬぬっ!みやぱぱひとりでねてずるい!ねるよっ!くーちゃんもね」  くぬぎは、みやのお腹を枕にして、寝転がった。  なんだ、ねてたのか。  そんなふうにされても、みやは目を覚まさない。ちょっとヘンかもしれない。 「ちょっとー、二人で寝ないでよ」  いそいで、くぬぎを抱き起こしながら、まなは、ピンクのプリリンが、ビヨ−ンと体の一部をのばしてみやをぺチっとたたくのを見た。プリリンの体全体もなんだかプルプル震えている。  でもみやは起きない。このままじゃ、みやがけがしちゃう。前は逃げたけど今度は… 「みやに何すんのよー―――っ!!」  まなは、ピンクのプリリンをけっとばした。  ブヨンという感触があった。プリリンは今度はまなに向かって攻撃してきた。ほほにちょっと冷たいゼリー状の物が当る。…あんまり痛くないかも。これだったら全然逃げる必要なんてなかったみたい。 「ねーねをいじめたー」  くぬぎが、爪を力いっぱい出して、両手を思いっきり広げてパンチした。しっぽが、3倍くらいにふくらんでいる。本当は怖いのかも。今度はくぬぎに攻撃が来る。でも、くぬぎは上手によけた。  みやは、まだ起きない。  まなはじーっとプリリンを見た。自分の中で気持ちが高まっていくのがわかる。そして 「ファイアー―――ッッ!!!」  小さいけれど炎がプリリンに向かって放たれた。ジュッという音がした。  続いてくぬぎももう一度今度は片手で攻撃した。  プルプル震えていたプリリンがおとなしくなった。…と 「むー、むすめーまたやったのーだめだよー」  みやがむっくり起き上がった。  何事もなかったような顔をしている。  げしっ。 「だめだよじゃないでしょっ。まなとくぬぎで、助けてあげたんだよ!。全くこんなとこで寝ちゃって!」 「ねてたーぁ?むーそれはまずいよねー」  もひとつげしっ。 「みやぱぱずるいー。きっとゆめのなかでいいものたべてたんだ−。かつおとかー」 「むー、こんどおみやげしてあげる」 「やくそくねっ!かつおじゅっぴきだよ」 「あのぉ〜」  おそるおそる、誰かが話しかけてきた。  ふりかえると、今戦ってたピンクのプリリンだ。 「写真とらないんですかあ?」  写真?なんだそれ。 「だって、いままでの人はみんな記念にって、写真とっていったよー。昔はサインした事もあったけど。」  そっかー記念かー。  戦いが終われば、昨日の敵は今日の友だものね。記念に写真をとるのもいい思い出になるかも知れない。  カメラは、みやのリュックに入っていた。最新式のデジカメだ。 「むー、とるねー。はいちーず」  って、顔も無いのにどうやって笑うんだ。ま、いいか。 「ねー可愛くうつってるかなー。ちょっと見せてよー」  ピンクのプリリンは写真写りを気にしてる。どうとったってプリンはプリンだと思うけど。  ビヨ―ンと体の一部を2箇所伸ばして、器用にデジカメを操作して、今取った写真をチェック。 「なんか、ちょっと太って写ってるー。やだなー、ダイエットしようっと。」 あ、それから、はいこれー」  ピンクのプリリンは名刺のような物をくれた。裏がシ―ルになっている。  そこには、『3 イチゴプリリン1:プリリンのなかま。HP10。相手を眠らせることがある。』 とあり、携帯の番号とメールアドレスが書いてある。                   
       ――― イチゴプリリン1の写真と名刺を手に入れた ―――
「わーありがと。でも、この3って何?」 「あのねえあたしたちモンスターには通しで番号がついてるの。」  そうか、多分1番がプリリンで2番がチョコプリリンだ。 「でも何番まであるのかは、知らないけどね」  「くぬっ!いちばんはかすてらだよね」 「むー、でんわはにばん」 「でもくーちゃんはいちばんすきだよっ、かつおがねっ」  聞いてない聞いてない。 「みやは、のり」  だから、聞いてないって。 「まなは、何だろ。たらこかなー、いくらかなー、粕汁も捨てがたいよねー。」  まなまで言い出すし。言いながら、まなは思いついた。  やっぱり、1番と2番ともお友達になった方がいいんじゃないかな。いきなりコレクションが3番から始まるっていうのも決まりが悪いしね。   決めたっ!今度から、新しいモンスターがでてきたら、なるべく逃げるのはやめよう。  それでお友達を増やすんだ。  戦わないとお友達になってくれないみたいなのがちょっと不満だけど、相手はモンスターだから仕方ないよね。  でもモンスターが友達なのって、ちょっと自慢できるし。  これで旅のもう一つの楽しみができたみたい。 「あ、それからお友達になった記念にこれあげる。武器になるよ」  銀色にピカピカ光るスプーンだ。これはみやにぴったりかも
         ―――  普通のスプーンをてに入れた ―――
「じゃねーがんばってねー。」                                
   
  
 

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