1.11.It's All Enough. 〜part3

 
 
  
        
 次の日由利香は先輩からもらったレシピで、『ナオ』のオーブンを借りて、クッキーを焼いてみた。 「出来たーっ!奈緒さん食べてみて!」  焼きたてのクッキーを一つマスターに渡す。 「いいんですか?水木さんより先に食べて。恨まれません?」  にこにこしながらマスターはクッキーを受け取る。 「もーナオさんまで」  一回目に焼いたクッキーをざらざらと皿に空けて、第2弾をオーブンに入れる。  見た目は素朴な普通のチョコチップクッキーだが、実はオートミールが混ざっているところがミソだ。  マスターは一口食べて、驚いた声を上げる。 「美味しい!イケますよ、これ!」 「ほんと!?」  由利香も一枚食べてみる。本当に美味しい。 「………ふっふっふ〜…」  思わず含み笑いがもれる。  …勝った。これでクリスマスケーキだ。 「どっどうしたんですか?」  急に豹変した由利香に、西マスターはぎょっとする。 「なんでも〜。また、来週作るから、また貸してね、オーブン」  由利香にしてはかなり丁寧に、一つ一つをラッピングする。 「すっごいいい匂い、どうしたのこれ」  愛が純と入って来た。 「ユカちゃんが作ったんですよ。」 「えーっ、できたの?ユカすっごい」 「はい、食べてみて」  一枚を半分にして、2人に渡す。 「おいしいっ!すごいユカ」 「…あいつ、これでケーキ作らされんのか…ま、定期的に凹ませたほうがいいいからな」  確かに調子に乗らせておくと、どんどん舞い上がっていくから、たまに重石はつけた方がいい。 「ケーキってなんですか?」  マスターが怪訝そうな顔をする。  純は、淳が由利香がクッキー上手く焼けたら、ケーキ焼いてやると宣言をした事を説明した。  マスターは今度は情けない顔になった。  多分、今度は淳がここにオーブン使いに来るんだろう。何時間占拠される事か。 おまけにうまく行かなかった時のことを考えると、頭が痛い。

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 次の日の朝、由利香は自信満々にクッキーを淳の目の前に突き出す。  可愛くいちご柄のラッピングがしてある。 「え?」 「できたもんねっ!」 「え?え?え?」  淳は呆然として包みを見る。 「食べて、食べてっ!」 「え…と、後にしよっかなー」 「ダメッ!今食べるっ!」  由利香は、包みを解き、淳の口にクッキーを押し込む。 「ねっ!美味しいでしょっ!」 「…んぐぐぐぐ…」 「ねっ!」  やっとの事で、口の中のクッキーを飲み込む。 「殺す気かよっ!」 「淳はそんなヤワじゃないもん。美味しかったでしょ」 「味なんかわかるかっ!?」 「えー、ひっどーい」 「てめーが悪ぃんだろうが」 「えーん、ミネちゃーん、淳がひどいー」  ちょうどそこに来た純に泣きつく 「うん、確かにこいつはひでえよな」  純は内容を確認もせずに、とりあえず同意する。 「んだよ、それっ!」 「クッキーの味わかんなかったって言うんだよ」 「かわいそう、ユカ。あんなに美味かったのにな」  純の言葉に 「…ちょっと待てよ、なんでてめーが先食ってんだよ」  「え?奈緒さんに最初に食べてもらって、そこにミネちゃんとラヴちゃん来たから味見してもらって、その後、ノリとチルチルと、ヒロと…」 「いーんだ、どうせおれなんて」 「ユカ、おミズ拗ねてる」 「由宇也もゆっこと来たから…」  淳を無視してさらに続ける。  どういうわけか、昨夜はほとんど全員『ナオ』に顔を出した。  でもってよりによって、淳は行かなかったという事だ。これが運、不運ってやつか? 「という事で、淳ケーキ作ってね」 「味わかんねーって言ってんじゃねえかよ」 「みんなが美味しいって言ってくれたのに、淳はまずいって言うの?」     「うっわーひでえおミズ」 「ミネ、なんか恨みでもあんのかよ」 「おうっ、いろいろとな」  きっぱりと純は答え、淳は、うっと言葉につまる。  考えてみれば、あれとか、あんなこととか、もしかして、これとかも恨まれてたのか、とか思い当たる節はたくさんある。  一瞬反省しかけたが、 「冗談だけど」 という純の言葉にほっとする。 「おまえのやることいちいち恨んでたらキリねえよ。とにかくケーキ作れ、約束したんだろ」 「おれのケーキなんて食いたいやついんのかよ」 「はいっ」  由利香が手を挙げる。 「う゛…」 「楽しみにしてるねー」 「おミズ、ユカのおかげで料理のレパートリー増えるよな。良かった良かった」 「っつうか、おれが食いたくねえ」 「じゃ全部食べてあげるから」 「ユ…ユカそんなに簡単に…」  愛があわてて止める。 「…言ったな…。よっしゃあっ、作ったる!ぜってえ食えよっ!」 「…こいつら…」  純は呆れて2人を見比べる。 「結局同じ穴のムジナだ…」 「そうねえ」  愛も同じように呆れながら同意した。

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   文化祭当日は天気も良く、人出も上々と言った感じだった。 「…で、なんでおまえと一緒に行く羽目になるんだ」  昼下がりの電車の中、なぜか隣にいる由宇也に、淳は不機嫌だ。  「おれだって、ユカの中学生活見る権利あるだろ」 「そりゃそうだけどさ。優子と行けよ」 「断られた」 「うっわ…もしかして、振られた?」 「振られてねえよっ。なんかみっともない事しそうで嫌だって言われたんだよっ!」 「みっともねえってなんだよ」 「知るか」 とは言っている由宇也だが、優子の言いたいことは大体想像はつく。  時々、由利香がらみだと見境なくなるし。 「やなんだよな、由宇也といると目立って」 「おまえが言うな」  独りでいたって十分目立つのに、身長もある由宇也とでかけるとますます目立つ。  こんなんで中学校なんて行ったら… 「ま、女子校とかじゃなくて良かったか」 「なんか言ったか?」 「なーんも」  中学校には珍しく、朝日中学は文化祭が盛んだ。保護者だけでなく、近所の人たちもたくさん来校する。  模擬店もたくさん出て、にぎやかだ。  入り口ではちゃんとプログラムも配っていたりして本格的。  ずんずん歩く淳に 「場所わかるのかよ」 「一度来たから」 と言うものの、 「…忘れた」  この前は真知子の母親に道聞いたんだった。  校内見取り図を確認しようとしたその時、 「あ、真知子ちゃん」  幸か不幸か真知子が通りかかった。珍しく顔を覚えていたらしい。  淳を見ると瞬時に耳まで赤くなる。 「み…み…水木さん…」  由宇也が不審そうな目つきを淳に向ける。 「おミズ…中学生にまで手出してんのか?」 「出してねえよっ!ユカの同級生で一遍会っただけだって」 「一度会っただけで、ちゃんづけかよ」 「ゆーやちゃんって呼んでやろうか」 「うっとうしいわっ!」 「あ…あのう…」  真知子が口をはさむ。このままだとずっと漫才してそうだ。 「何か、ご用…ですか?」 「教室行きたいんだけど、よくわかんなくてさー」 「あ、じゃあご案内します」  真知子は先に立って歩き出した。 「ところで、そっちは…」  由宇也のほうをチラッと見る。 「ああ、これユカの兄貴。由宇也っつうの。見た目はいいけど、性格は難あり」 「だから、それもおまえに言われたくねえよっ!」 「あのう、前、うちに電話してきましたよね」 「電話?いや…してないけど」 「え?でも、ユカのお兄さんって」  淳がわざとらしく視線をそらした。 「お〜ミ〜ズ〜ぅ。おまえだなぁぁぁ」 「あぁらぁ?なんの事かしらあ」 「ひとの名前でなに悪さした。言ってみ?あ!?」 「人聞き悪ぃなあ。おれの名前出したって、わかんねえじゃん。他人でーすとか言っても呼んでもらえねえだろ」 「…水木さんだったんですか、電話してきたのも」 「も?」 「迎えに来てましたよね」 「あれ、知ってたの?」 「私じゃなくて、もう一人の友達が。」 「ふ〜ん」  淳は真知子に視線を向ける 「アンタ達って、もしかしておれたちの事観察してた?」 「え?あ?いえ、あの、その…」 「こら、怖がってんだろ。中学生威嚇すんなよ」  由宇也は淳の頭を捕まえて、真知子から視線を逸らさせる。 「威嚇してねえっ!」 「おまえの視線は凶器なんだよ。良くも悪しくも」  真知子は言い合う2人をしげしげと見つめた  この2人って…もしかして、仲悪い?じゃ、なんでいっしょに…?  「ねえ、ええと…ユカの同級生の…」  由宇也はさすがに真知子ちゃんと呼ぶのは気が引ける 「大田真知子です」 「大田さん、ユカ、学校で上手くやってる?」 「ばっかじゃねえの、由宇也、こんなトコで、こんな問題がとか言うはずねーじゃん」 「うるせえな、てめえは。ちょっと黙っとけ」 「おれなんて全然心配してねえもんね」 「うそ付きやがれ。」  …やっぱり仲悪そう…。  その上、もしかして由利香のお兄さんって… 「だいたいなあ、おれは反対だったんだよ、何も目のとどかねえとこにさ…」  あ、やっぱり、心配性って言ってたのは本当だったんだ。 「由宇也の過保護」 「友達の家に遊びに行ったユカを、おれの名前騙ってまで迎えに行ったおまえが言うか?」 「…むっかつく〜」  真知子は少し噴出した。淳の雰囲気がこの間と微妙に違う。なんて言うか、ちょっとだけ子供っぽい。 『やっぱりユカといっしょの時は少し保護者っぽくしてるんだ、きっと』  と思ってしまう。 「ユカ、お客さん」  クラスについて、真知子が由利香を呼ぶ。紺地の絣の着物に赤いたすきをかけた由利香が振り向いた。  それを見て由宇也が固まる。そういえば着物って知らなかったか。 「……すげえカワイイ……」  小声で呟く。 「馬っ鹿じゃねえの」 「おまえはカワイイと思わねえのかよっ!」 「え?あ…いや、それは、その」 「むっちゃくちゃ可愛いとか思ってるくせに。みんなに見せてもったいないとか」 「そこまで思ってねえよ」 「いーや、思ってる。おれの知ってる水木淳はそういうヤツだ」 「ちょっとちょっと」  入り口で言い合う2人に由利香が声をかける。 「すっごい目立ってるから、そこで止まってないでよ」  ふと気が付くと、教室のあちこちから顔がのぞいて、こっちを見ている。女の子ばっか。  2人の手を引いて、入り口近くの席に座らせる 「ここにいると客寄せになると思うから、ここ座ってて。」 「おれ達はパンダかよっ!」 「おまえランランな」 「なんで、おれが雌っ!?」 「当然だろ」  涼しい顔で由宇也が答える。 「なんか最近おれってそんな扱いばっか」  自分の最近の生活をちょっと反省なんかしてみる。 「やっぱあの女装だよなあ」 「そういう問題じゃねえよ。おまえは基本的なキャラがそっちなんだよ。だから女装するはめになるんだろが」 「ひどいわああっ ? 」 「ばかやろうっ」  由宇也は淳の頭をこぶしで殴った。 「ユカ、ホントにこいつと付き合うのやめろ」  ちょうど注文を取りに来た由利香に真剣な顔で訴える。由利香は無視。 「注文は?」 「コーヒーとクッキー。こいつといると馬鹿になるぞ」 「淳は?」 「麦茶とクッキー。いってえなあ、由宇也マジで殴るなよ。」 「あんまり、2人で馬鹿やってないでね。恥ずかしいから」  由利香はさっさと、奥に戻って行った。 「クッキー二つと、コーヒーと麦茶」  言いながら、注文の品をセットしていると、女の子達にどっと囲まれる 「ユカちゃんっ、あれ誰っ!?」 「知り合いっ!?」  みんなの勢いに思わずたじろぐ。 「兄さんと友達…」 「彼女いるのっ!?」 「由宇也…兄さんは、ずっと付き合ってる彼女がいるけど」 「なんだああ」 「お友達の方はっ!?」 「え?え…と、特に誰かと付き合っては…」 「よっしゃあああっ」  一斉に声を上げる。 「じゃんけんして、勝った人が運ぶわよっ」 「おっけー、じゃーんけーん」 「ポンっ」 「きゃぁぁぁっ勝ったぁ」  由利香は呆然とそれを見守る。 『すっごおい、やっぱ淳ってモテるんだ。へえ』  時々思い知らされる。そしてその度、自分に自信を少しずつなくして行ってしまう。  前はそんなことなかったけれど。 「ユカ、いいの?」  真知子が由利香に小声で声をかける。 「なにが?」  平静を装って返事をし、じゃんけんに勝った女の子に 「じゃ、これお願いね」 とお盆を渡す。片方の皿には自分で焼いたクッキー。ほんとうはちゃんと食べてもらってないから、淳に渡したかったんだけど、わざわざ指定するのもなんか不自然だし。 「みんなに言ってあげようか?」 「なんて?」 「ユカの彼だよって」 「まっち。別にそうじゃないよ」 「きゃあああっ、ありがとうっていってもらっちゃったぁぁっ!」  お盆を持って女の子が帰ってきた。 「やーん眠れないっ!」  気持ちはわかる…と真知子は思う。 『でも、水木さんがユカといっしょにいるの見たら、もっと眠れなくなっちゃうんだよ』  淳は自分の目の前のクッキーと、由宇也の前のクッキーをじーっと見比べていた。 「由宇也。とり代えて」 「なんで。あ、コーヒー、ちゃんとレギュラーだ。」 「1枚でいいから」 「理由言わないとやだね」  2枚あるクッキーのうち1枚を食べる。 「…なんか食ったことある味」 「由宇也、頼むからー」 「理由」 「…それ、ユカが焼いたクッキー」  由宇也は練習で焼いた時にちゃんと味見したから、確かに食べた事がある味のはずだ。 「お願いっ」  両手の平を合わせて、拝む。 「おまえ食ったろ。みんなに配ってたじゃねえかよ」 「ちゃんと食ってねえ」 「ふーん。食わせてもらわなかったんだ。ふーん」 「なんだよっ、てめえ」 「あ、いいんだよ、そういう口きくなら」  由宇也は残り1枚のクッキーを手にして、食べる真似をする 「あ、あ、あ〜っ!」  思わず立ち上がって声を上げる。  店の視線が集中する。 「恥ずかしいやつ、座れ」 「由宇也〜」 「何、涙目になってんだよっ!信じらんねえやつだな、まったく。ほら、やるから」  クッキーを淳の皿に載せて、代わりに淳の皿に載ったクッキーを一枚自分の皿に載せる。 「サンキュー♪ 由宇也愛してるぜっ!」 「愛されたくねえ。涙はどこ行ったんだ?」 「知らねー、げっ、マジでうまいじゃんこれ」  やっぱ負けたかと納得する。いよいよケーキかと観念する。 やべー、誰かに簡単なの教わらなくちゃ。それこそ4丁目のおねーちゃん達か誰かに…。 「あ〜あ。」 「なんで美味いのに落ち込んでんだ?」 「ちょっといろいろ。青少年は悩む事がすっげーあるんだ」 「ホントかよ」  特に行くところも思いつかないので、しょうもない話をしながらだらだらとそのままい続ける。  とりあえず、人寄せパンダの役目も果たし、『お休み処』は盛況だ。 「お代わりいかがですか?」  しばらくすると、さっきと別の女の子がやってきた。 「あのさー、簡単なケーキの作り方知らない?」  質問には答えず、淳が聞く。 「は?」  女の子はキョトンとした顔になる。 「ダメかー。あ、気にしないで。ちょっと聞いてみただけだからさあ」 「おまえ何言ってんだよ…サンドイッチの次はケーキかよ」 「鍋もする。年末あたりにやるから、由宇也も食いに来いよ。あ、会費制ね」 「何を好き好んで、金払って腹壊しに行くんだ」 「えーおれが、由宇也の大事な妹のために、経験した事のない鍋を食わせてやろうっていう、心優しい企画を立ててるのに、協力しねえんだ。そーゆーヤツだよなおまえは」 「あのう…ご注文」 「あ、麦茶」 「おれはまだいい」  女の子が戻ると、他の子たちがきゃあきゃあ迎える。 「ねー何の話してた?」 「…鍋…」 「え?」 「とか、ケーキとか…」  わけがわからない。  淳はしばらく文化祭のパンフレットを見ていたが 「これだっ!」 と叫んで立ち上がる。  また店中の視線が集中する。 「由宇也、おれ、ちょっとここ行って来る。由宇也も行く?」 「どこ?」 「家庭科室。お菓子教室やってるから」 「『お菓子』…って。おミズの口から出ると、毒物に聞こえるな。女ばっかだぞ。また目立つぞ」 「おれ、そーゆーのは平気だもん。」  目的のために手段は選ばないと拳を固める。 「勝手に行け、付き合いきれねえ」 「あーっ!何言ってんだよ。勝手についてきたくせに」  文句を言いながら教室を出て行く。女の子達が 「ああああー」 と言いながら見送る。 「淳、どこ行ったの?」  由利香が麦茶を運んできた。 「なんか、ケーキ作るんだと。わけわからん。ユカ、なんか知ってる?」 「え?本気なんだ」 「約束でもしたのか」  妙に鋭い。 「別にー」 と言いかけたところに、女の子達がどっと集ってくる。どうやら2人の時は話しかけにくかったらしい。由宇也1人になって由利香もいたので来易かったのだろう。 「こんにちは、ユカのお兄さん」 「あ、ああこんにちは」  元気な女子中学生の集団に思わずたじろぐ。 「お友達行っちゃったんですか」 「お1人で寂しくないですか」 「コーヒーお代わりどうぞっ」  由利香と由宇也は2人で小声で言葉を交わす。 「…由宇也ももてるんだぁ」 「…もってなんだよ、もって。ったくユカの判断基準、あいつだからな。」 「認めるんだ、淳の事」 「もてるのはね。あいつその気になると調子いいし」 「お兄さん、彼女いるんですか?」 「いるけど」 「やっぱり」 「ほんとだ」  何人かががっかりする。 「あ、でもお友達は彼女いないんですよね。ユカが言ってた」 「え?」  由利香をチラッと見て、さらに小声で続ける。 「…いいのか?」 「なにが?」 「最近、なんだかおまえら不憫になってきた。もしかして、おれが反対するせいか?」 「違うよ。それより、由宇也ヘンだよ、大会あたりから」   「そうか?ま、今更あいつが別の誰か好きになるとも思えねえけどな」 「やっぱ、ヘンだ…」  女の子たちは更にきゃあきゃあ騒ぐ 「お友達、どんな女の子が好きかご存知ですか?」 「あー知りたい知りたい」 「おミズの趣味?そんなの…」  知らないといいかけて、思い返す。 「小柄で、自分より華奢で、何か言うと言い返してくる、ちょっと気が強いタイプ、かな?天然入ってるとベスト」 「ゆ…由宇也…」  無意識に由利香がちょっとだけ頬を染める。 「なんだか、ずいぶん具体的ですね」 「誰かいるんですか、もしかして」  女の子達がまだ何か言いたがっているのを振り切って立ち上がる。 「…おれも、家庭科室行くよ。あいつが『お菓子作り』するの見ものだし」 「あ、500円ね」 「コーヒーとクッキーしか、頼んでないぞ」 「淳お金払っていかなかった」 「…ユカ、やっぱり、あいつと付き合うの反対…」
  
 

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