1.2. Two Years Ago. 〜part3
制服がいやだの、髪がどうのこうのと文句を言っていた淳だったが、杉浦に徹夜で(ご愁傷様)説得されてあきらめた。、どうにかぎりぎりの線まで髪を切り、(ちなみに歴史もね)その日の朝を迎える。温も長い髪を校則どおり三つ編みにし、愛も肩まである、ふわふわした髪を目立たない黒いリボンでむすんだ。スカートの長さはほぼ膝丈、ソックスは白。制服は温の学校がセーラー服、愛の学校はジャンパースカートだ。
「もうちょっと後だったら上着いらねーのにな」
淳はぶつぶつ文句を言う。確かにあと半月ほどで衣替えだ。そうすれば夏服なので上着はいらなくなる。ほぼ一年中Tシャツですごしている彼にとって、制服の詰襟はほとんど拷問に近い。息をするのも辛そうだ。
「人間、一生のうち、一回くらい制服着るのもいい体験よ」
みんなの着換えを手伝っていた亜佐美が笑う。
「けっだ」
「えー私は嬉しいな」
温はひらひらと制服のプリーツスカートを翻しながら踊るようにくるくる回る。
「着たかったのセーラー服。夏服と冬服両方着られてラッキー。カッコいい男の子いるかなー」
「温ちゃんあんまり期待しないほうがいいわよ」
「えー何でよ亜佐美さん」
「日頃、目が肥えちゃってるから、そうそういい男なんて外にいないって」
「あーそーかなー。でも期待はしてみようっと。人数多いしねっ。ね愛ちゃん」
愛はにこにこしている。
「あ、愛ちゃんはいいのか」
小声で言ったのを歴史が聞きとがめる
「え?何何?それどういう意味?」
「別にー。あ、あたし達時間かかるから行くねー。愛ちゃんも行ったほうがいいよ。電車の時間あるでしょ。じゃ行って来まーす」
温は武の手を引っ張って出て行った。
「じゃおれ達も行く?親津さん」
「あ、…はい」
愛は荷物を持ちかけた。持ちなれない学生カバンが重い。
「重そうだね。もってあげようか?」
純が手を出すと、
「え?え?だ…大丈夫です」
とあわてて急いで持ち直す。純は怪訝そうな顔になる。
「ふーん。ならいいけど。重かったら言いなよ、持ってやるよ」
「…」
「じゃ南ヶ崎隊行きまーす。遅れんなよ、地元組」
純と愛も出て行った。
それを見送って、歴史
「なんか…あの二人って…」
と淳の方を向く。
「んー。まいいんじゃねーの。でもわかってねーよ、峰岡」
「だよねー。鈍感だからなミネ」
「ミネ?」
「峰岡くんの愛称」
「おまえ、それ、勝手に決めてねーか?」
そう言えば、由利香のことをユカと言い出したのも彼だし、時々温のことを温(おん)ちゃんとかよんでいる。
「駄目かな。呼びやすいよ。ぼく達もいこうよ、おミズ」
「だから、勝手に決めんなって」
「やだ?んじゃ、ミズっち、ミズたん、ミズりん、ミズぴー、…どれがいい?」
「…最初んでいい」
淳はぐったりして、カバンを取り上げた。
****************
朝日中の二人組、温と武は自転車で学校に向かっていた。と、言っても自転車通学がみとめられているどうか分からないので、最寄駅に止めて、そこから歩く。電車では隣の駅なので、自転車で20分程度だ
「なんで体力ある男子二人組が近くで、か弱い女の子は二人とも遠くなのよ」
温は文句を言う。
「仕方ないんじゃない?水木が朝日にも、南ヶ崎にも顔割れてるし。去年テニスとバスケで助っ人行って、派手にやっちゃったから。彼は目立つからちょっと向かないかもね、Φには。チルも今年朝日に行ってるよね。峰岡とぼくは前に竹原行ってるし」
「組み合わせがわかんないわよ」
「まあいいじゃない。セーラー服着たかったんでしょ」
駅に着いて自転車を止める。駅前は学校や会社に行くのに家から乗って来た自転車やバイクでいっぱいで歩道にまではみだしている。駐輪場もあるにはあるらしいが、有料だし、駅からちょっと歩くしで、だれも利用しない。早く来ないと止められなくなりそうだ。
学校は駅から歩いて10分ほどだ。各学年10クラスくらいある、いわゆるマンモス校なので、探し回るのも大人数に紛れてやり易いかもしれない。その意味では最有力候補で、だから一番しっかりしている武を配置したのかもしれない。
学校に近づくにつれて、同じ制服を着ている生徒が多くなっていった。武と温はお互いは知り合いではないことにして、別々に校門をくぐった。それぞれ入り口の事務室で担任にとりついでもらい、まず校長室に通された。
実は一週間くらい前に皆自分の行くことになっている学校に行って、簡単なテストを受けてきている。内容は学校によって異なったが、ここが一番しっかり受けさせられた。国数英社理5教科で理科と社会は2科目づつあった。
「二人ともなかなか良い成績でしたね」
校長が2人を見比べてにこにこして言う。
「特に川上君は全教科満点に近いです。素晴らしいですね。高校入試も期待していますよ」
『それまでいないけどね』と温は心の中でつぶやいた。
「紫樫さんも英語はとても良かったですよ」
外国で大会があったりするので、Φでは英会話だけはきっちり仕込まれ、授業も週3回あって、必修になっている。出ないと補習がある。週一回の小テストで基準に達しなくても、補習が待っている。入った当初は大変だが、わりと早くみんな慣れる。先生もアメリカかイギリス人の先生が常に入れ替わりで来ている。昼休みなど勉強を兼ねてお喋りに行く女の子達も多い。総じてみんな気さくで陽気なのだが、それだけに子供たちはすぐに影響を受ける。イギリスの先生がいる時はきれいなキングスイングリッシュを話していても、次にアメリカ人の先生がくると、あっというまにブロークンなアメリカ英語になってしまう。まあそれもご愛嬌か。今の先生はとりあえずイギリス人なので、きれいな英語の時期だ。
「じゃああとはそれぞれの先生におまかせしましょう。まだ5月でやっとクラスのみんなも顔を覚えたかなと言う程度です。すぐにクラスに馴染めると思いますよ」
二人はそれぞれの担任について教室に向かった。
「紫樫さんは、ご両親の都合でという事だったけど、今日はご両親は?」
「二人とも職場変わったばかりで、来られなくて」
「そうか。それで一人で。しっかりしているね」
担任の若い男性教師は感心しながら1年1組と書いてある教室の前で立ち止まった。中はダダダダッと走り回る音、ぎゃーっという悲鳴、笑い声、何かがぶつかる音で大騒ぎだ
『みんな子供ね』
温が思っていると、担任教師は大きく息を吸い込んで引き戸を開けた。そして
「こおおおおらあああああっ!静かにしいいろおおおおおっ!!!」
と大声で渇を入れた。とたんに教室はシ―ンとし、立ち上がって遊んでいた生徒達もばたばた自分の席に戻って行った。
「きりーつ」
と日直が声をかけ、みんな一斉に立ち上がる
『そうよ、これこれ、これが学校ってやつよね。』
一年近く学校を離れている間にこういう規律正しく皆で動くという事を、温はすっかり忘れていた。Φではこういう事はまずない。必ず何人か違うことをしているし、朝の段階で全員が揃ってないことも珍しくはない。だいたいいないのは淳だけど。
出席をとった後、教師は廊下で立ってまっている温に目配せした。
「今日は転校生を紹介する」
手招きされて、温は教室に入った。ちょっとどきどきする。おおーっと言う声とざわざわと小声で話し合う声が起きた。
『ええ?おおーっだって!もしかして私って結構イケてんのかしら。』
教師は温が前に立つと黒板に名前を書いた。
「紫樫 温くんだ。ご両親のご都合で転校してきた。みんな仲良くするように」
「紫樫です。よろしくお願いします」
温はぺこっと頭を下げた。
「はいはいはーい!質問でーす!」
どこのクラスにも必ず一人や二人はいる、お笑い担当の男子が、勝手に手を上げて、勝手に立ち上がった
「付き合ってる男いますか?」
「いません」
また、おおっと声があがった。
「やったー」
と彼は席に座った。
『え?やーだ私モテてる。』
まんざらでもないけど、温はここで愛のことが心配になった。あの内気で控えめの愛の事、こんな注目の的になったらどうするんだろう。
『あとは全然心配ないけど。』
****************
そのころ愛は質問攻めにあっていた。何しろみるからに純粋の日本人ではない外見に反して、昔の日本女性っぽい古風な控えめさ、のギャップがみんなの大注目となってしまった。
「好きな食べ物」
から始まって、趣味、誕生日、血液型、得意科目、果ては好きな色や動物、作家に至るまで、ありとあらゆる質問が出され、愛はまるでみんなの前で自分が丸裸にされているような恥ずかしさを感じていた。もう20分以上たっているだろうか。答えはしているものの、ともすれば声は消え入りそうになる。それをこらえて必死に答えている姿にまた、
「かーわいいー」
となってしまう。
愛は、だんだんこんな事でパニックになっている自分が情けなくなってきた。みんなきっとうまくやっているんだろうな。温だって、武だって、淳だって歴史だって、…純だって
…と、この間純に言われた『もうちょっと強くならなきゃ駄目だよ』という言葉を思い出した。
『そうよね、がんばらなくちゃ』
愛は下唇を噛みしめた。そしてまっすぐ前を見ると、しっかりした口調で
「みなさん、いろいろ聞いてくれてありがとうございます。でも、もうホームルームの時間もすぎてしまっているようですし、できれば終わりにして、一時間目の準備に入っていただきたいと思うのですが、いいですか?」
と言った。
みんなは一瞬あっけにとられ、教室はシーンと静まりかえった
愛は教師のほうを向き、
「席どこにすわればいいですか?」
と聞いた。
教師は愛の突然の豹変ぶりに唖然としていたが、我に返り
「ああ、あそこだ」
と一番後ろを指差した。
「じゃ、私席につきます。みなさんこれからよろしくお願いします」
礼をして自分の席に向かう。足がガクガク震えているのが分かった。
誰からともなく拍手が起こり、それは一時間目の教師が教室に入ってくるまで続いた。
震える足を隠しながらやっとの思いで席に着くと、隣の席の女の子が話し掛けてきた
「親津さん、カッコ良かったよ。最初ちょっとぶりっ子かなって思っちゃった。私、楠(くすのき)奈々。よろしくね」
奈々の笑顔に心が和んだ。
愛はホッとしてこたえた
「私こそよろしく。色々教えてね」
****************
淳は、本人はともかく回りにちょっとしたパニックを起こしていた。
教師に紹介され、前に立つと
「水木です」
とだけ言って、クラスメートに質問する暇も与えず、窓際の一番後ろの席が空いているの見つけると制服の窮屈なボタンを外しながら、さっさとそこに座ってしまった。
「き…君何かほかに、あいさつはないのかね」
「別に」
「第一そこに座れとは言ってないぞ」
「ここじゃないんすか?」
「いや…そこだが…」
「じゃ問題ないっしょ」
そして、あとは頬杖をついたまま、じっと窓の外を見ている。
一日目の朝にして問題児のレッテルを頂戴してしまった。
髪なんてムリして切ってもあんまり意味なかったかもしれない。
****************
そんなこんなで一日目はすぎた。
放課後、歴史が淳の教室にやってきた時、淳はさっさと帰ろうとしていた。
「おミズ帰るつもり?」
慌てた様子で歴史は言った。
「ダルくて限界」
「だめだよ、ちゃんと部活とか見ないと」
「おまえ見とけよ。おれ、これ以上学校にいるときっと死ぬ」
「昔は通ってたんでしょ学校」
「そんな事もあったかなあ」
遠い目をして淳は言った。ちゃんと授業に出ていたのは思えば5年近く前かもしれない。
小学校時代はそれでもテストの点は悪くなかったので、通知表はそこそこだった。授業サボるのでさすがに5はつかないが、4くらいはとっていた。美術とか音楽とかは2だったけど、本人は全然気にしていない。毎回のように真っ黒になるまで細かくびっちり書かれる素行欄には母も辟易気味だった。いつも『なにもこんなに毎回同じような事書かなくてもね』とこぼすので淳が『だよな、進歩ねーよな』と相槌をうったらものすごく怒られて、たしか夕飯を抜かれた。
「とにかく!少しだけでも見ていこうよ。はい荷物置いて」
「かったりーなあ」
文句を言いながら、それでも淳はカバンを置き、歴史と一緒に教室を出た。
「おミズさ、話題になってたよ、うちの組で」
「ふーん」
「カッコいい人が2年に転校してきたって。知り合いかってきかれた」
「んで?」
「知り合いだって、言っといた。きっとバレるから」
「まーバレるわな」
現に今一緒にいるし。
「あーあ、ぼくなんて、可愛いーだもんな」
と歴史は嘆く。
「可愛いでいいじゃん」
「良くないよっ!屈辱だって」
「屈辱かあ。カッコいいって言われてーんだ、歴史」
「言われたいよっ!男ならみんなそうでしょ!」
「そっかぁ?」
「おミズはわかんないのっ!いっつも言われてるから!第一亜佐美さんたちにかわいいって言われて怒ってたじゃない!」
「だっておれはかわいくなんかねーもん。おまえカワイイじゃん」
「また、そーゆーわけわかんない理屈をつけるんだから!」
歴史はぷんぷん怒りながら廊下を歩いて行く。…が時々淳がちゃんとついてきてるか確認は怠らない。
やがて体育館に着いた。
「ほらバレー部とバスケが練習してるよ」
体育館の半分づつを使ってバレー部とバスケットボール部がちょうど練習を始めるところだった。
「曽根―なにやってんの」
歴史の肩をポン誰かがたたいた。振り返ると同じクラスのえーと誰だか忘れたが、多分バレー部だって言ってた。
「ちょっと見学。ほら、部活決めないと」
「バレー得意なの?先輩に紹介してやろうか」
「あ、いい、いい。いろいろ見て決めたいから」
歴史は両手を左右にブンブン振った。
「ま、そうだよな。部活次第で中学時代が決まるもんな」
「うんうん」
「じゃ、ゆっくり考えろよ。相談乗るから」
「ありがとう。あてにしてるね」
彼は走って、準備運動の輪の中に入っていった。
「部活で決まるもんか?中学時代って」
「そういう人多いんじゃない?あと女の子とか」
「へーえ」
「へーえって…おミズはさ」
「?」
「好きなコとかいないの?」
「いねーよ」
「ホント?」
「ほんと」
「ユカは?」
「由利香あ?ばーか」
「ばかじゃわかんないじゃない!」
「おれは保護者だから。そーゆーんじゃねーよ」
「ホントかなぁ。だいたいおミズが誰かの保護者っぽくなるって事自体不思議だよね。亜佐美さんもおミズはユカにはやさしいって言ってたし。それって好きって事とは違うわけ?」
「ちがうってんだろ。しつけーな。別に優しくもねーし」
「ちがうの?」
「ちがう」
「ふうぅん」
歴史は疑わしそうな目で淳を見ていたが、しばらくして
「じゃあさ…もしぼくが…さ」
と言いかけた
「おまえがどうしたって」
淳はバスケット部の練習を見ながら生返事を返す。歴史は
「あ、何でもない、何でもない。ごめん気にしないで」
と言葉を濁した。そして淳に気がつかれないようにため息をつき、
「わー結構うまいよね、中学生でも。レベル高いねー」
と体育館に目を向けた。
****************
中学校に行って来た6人が集まるとミーティングが行なわれた。
愛は一日中緊張していたので、やっと少しホッとした顔になっている。ここが自分の中でも自分の家になっているんだなとしみじみ思う。奈々は色々教えてくれそうだし、何とかやっていけそうだ。
温は自分って結構モテるじゃんとにやにやしている。たしかにサラサラつやつやの背中まである黒髪はそれだけでもモテる要素かもしれない。今日は一応校則にのっとって三つ編みにしていったけど、そのへんみんな適当みたいだったので、明日は下ろして行こうと考えていた。
純は、内心大丈夫か心配していた愛がどうにか転校初日を乗り切ったようなので、そっちに安心していた。自分のクラスは3年なので、受験体制に片足をつっこんでいて、あまり転校生には関心はないようだ。多分その方が動きやすくて助かるかも知れない。ただ今から部活に入るのはどう考えても不自然なのでそこが問題だ。
武のクラスも似たようなものだ。ただ、担任がテストが全教科ほぼ満点だった事を告げたので、周りの視線が少し厳しいような気もしていた。しかし、彼としては別に友達を作りに行ったわけではないので気にする必要はないと思っていた。
一番熱心に情報を仕入れようとしているのは、歴史かも知れない。今一つ動こうとしない淳をあちこち連れまわして、かなりの数の部活を見学してきた。クラスにもあっという間に溶け込んでいるようだし、けっこう楽しそうだ。
…で、淳。
「学校から電話があったぞ、水木淳」
有矢氏は一応身元引受人のような形になっており、学校との対応は全てここに入ってくる。
「おまえ、むちゃくちゃ態度悪いって言われたぞ。何したんだ」
「なんも」
そう、本当に何もしなかった。教科書もろくに開かなかったし、もちろんノートも取らない。リ―ディングもみんなで一緒に声を出して読んだりもしなかった。数学の時間も問題解いていないのがばれて、前に出されて解かされた。スラスラ解いて、教師を唖然とさせたが、思えば字を書いたのはあの時だけだった。
「あれで態度悪いんだぁ」
なんて、本人は感心している。全然そんなつもりはなかったようだ。
「周り見て、同じようにしてろ、なるべく」
「なるほど。じゃ、もしかして授業中寝てたのもヤバイんだ」
「初日から寝てたのか」
「えーご、かったるくて。あと国語わけわかんねーし」
「せっかく学校行ってんだから、少し勉強して来い」
「みんな同じ事すんの、むかねぇ」
「…減給するぞ、言ったよな」
「げっ!」
淳はあわてて、姿勢を正した。
「わかったって。すっげー反省してるから」
「今度こんな電話があったら、一万円減給だぞ」
「いっ…いちまんって、ダメージでかすぎ」
「もうちょっとだけ真面目にやればいいんだ、水木、わかってるよな」
「もうちょっとかなあ」
話を聞いてた由利香がつぶやいた。
「すっごくだと思うよ」
「うっせーな」
「いーなー。みんな学校行けて楽しそう。私も行きたかったな」
由利香はまだ中学生の年齢に達していないので、今回はパス。一度も学校に行ったことのない由利香は、同い年の子がたくさんいる、学校生活に憧れを持っている。しかし、彼女も団体生活に馴染めるかどうかは、多少疑問の余地がある。
「机くっつけてお弁当とか食べるんだよねー。で、おかずの取りかえっコとかするんでしょう。他のクラスの男の子の噂とかするんだよねー。昨日見たテレビの話とかさ」
「何がいいんだ、そんなもん」
「でさー卒業式では憧れの先輩の第2ボタンもらうんだよね。『先輩、ずっとあこがれてました』とか言って。でさーでさーバレンタインデーには朝早く来て、靴箱にチョコレート入れるんだよね。でー好きな人が休んだらノート取ってあげて、そっと家まで届けてあげたりするのよねー」
「あのさ、その設定って、好きな相手っつうのは先輩なわけ?同級生なわけ?」
由利香の暴走する妄想を、ばからしいと思いながらもつい淳は突っ込んでしまう。こういうところが亜佐美に『由利香には優しい』と言われてしまうのかもしれない。
「いいのっ!好きな人は同級生で、先輩はあこがれなの!で、カッコいい隣のクラスの男の子も気になるの!そーゆーもんなの、女の子は!」
「…そーゆーもん…なんだ」
聞かなきゃ良かったと言いたげな顔の淳を見て、亜佐美が笑っている。何だか最近ずっと笑われている気もする。
「で、何か成果はあったか?まあ一日目だからムリだろうが」
「はいはいはいっ!」
歴史が手を挙げながら立ち上がった。
「部活10くらい見てきたけど、けっこうどこも上手でした。でも飛びぬけて目立つ人は特にいませんでした。ただあそこはサッカーが盛んみたいなので、明日もう少し気合入れてみて、場合によっては体験入部させてもらおうかと思ってます」
「熱心だな、曽根。水木がいい加減でも竹原中は安心だな」
「あ、じゃあおれ、降りていい?」
「だめだ」
冷たく杉浦が言い放つ。
「いないよりマシだろ、おまえでも」
「ちぇぇぇぇっ!」