1.7. when She Changes into the Swimwear. 〜part3

 
 
  
        
 次の日、 「私はやめておくわ」 とにっこり笑った優子を除く5人は、 「買い物どころじゃないだろう」 と渋る有矢氏を説き伏せて(たまには休養しなくちゃ、とか、必要なものも買えなくてハワイ行ったらあっちはサイズが違って不便、とか、水着買ったら見せてあげますからー、とか)外出許可を取り、町に買出しにでかけた 「女の子ばっかでお買い物行くの初めてだねー」 とはしゃぐ由利香に 「それは、ユカがいっつもおミズと出かけちゃうからでしょ」 と温が突っ込んだり 「今年の流行りの水着ってどんなのだっけ?」 と言う愛に 「もう水着って言えばビキニねビキニ」 と盛り上がる花蘭に、 「私、ちょっとビキニは…」 と、引く馨。 「ハワイはビキニよ。ハワイなら恥ずかしくないね」 「私もビキニにしよっかな」 温が言い出した 「それで、彼を悩殺するのっ!うふふっ!」 「彼ってっ!?」 「温ちゃん好きな人いたの?」  声がダブる馨と花蘭に、由利香は思わず 「…まだ知らない人いたんだ」 と呟く。女の子はもうみんな知ってたと思ってた。 「ってゆーか、温ちゃん、多分悩殺とかされないと思うよ。そーゆーキャラじゃないでしょ」 「えーそれは私が魅力不足って事?わかったこれから一ヶ月女を磨くわっ」 「い…いやーそーゆー事じゃなくてさ」 「ユカ一緒に女を磨こうっ、で、彼のハートをゲット!」 「ユカも、やっと決心がついたの?」  微笑む愛に 「なんの決心よっ!?巻き込まないでよ、温ちゃん!」 「うーん、もうユカはハートはゲットしちゃってるかもよねえ。よおし、ユカも買おうビキニ」 「無理っ!それは無理だってっ!蘭ちゃんとか温ちゃんくらい胸ないと無理っ!13才の私にビキニはありえないっ」 「パット入れれば?」 「やだ、そんな姑息な真似」 「こそく?こそくってナニ」 「ずるい事よ蘭ちゃん。ところで、温ちゃんの好きな人って…」 「やあああんっ!言わせるのっ!はずかしぃぃぃぃっ!」  温は思いっきり馨の背中をバンっとたたく。馨は勢いで1、2歩前につつっとよろめく 「ユカ代わりに言って」 「乗だって」  あっさりという由利香に二人の足が止まる 「ええええええええっ!」 「うそうそうそうそっ!」 「…そんな驚くことかなあ」  唯一驚かなかった由利香は首を傾げる 「乗カッコいいじゃん。酔うと面白いし、時々逆上するし」 「だから、私達はそういう汀さんは見たことないよ」  花蘭は、はたはたと片手を顔の前で振る。 確かに飲むのはいつも淳とだし、逆上するハメになるのも淳がいっしょの時がほとんどだ。そこにたまたま(か?)由利香がよくいるから、由利香はいつもと違うバージョンの乗を見る機会が多いってことだ。 「ユカって、おミズ以外は簡単にカッコいいとか認めるよね」 「でも、乗はカッコいいんでしょ、温ちゃん」 「もっちろん!ま、世界一よね!」  言い切ったぞ。馨と花蘭は、はぁぁと溜息をつく。 「これで残るは私たち二人ね、かおちゃん」 「そーね、蘭ちゃん」 「私たち二人でくっついちゃう?」 「…それは、や」  馨は思わずたじろぐ。 「私も残ってるけど…」  由利香が口を出すと 「まだ、そんな事言ってるのね、この子は」 と花蘭に睨まれる 「そんな事ばっかり言ってると、もらうよ、おミズ。結構好きだし」 …結構好きってなんだ?よくわかんないよ蘭ちゃん。 「蘭ちゃん、無理よ。おミズがユカの事放さないから」  愛がいつものようににっこり笑って言う 「あ〜あ、私に淳以外の選択肢はないの?」 「ユカ贅沢!ガマンしなさい!」  みんなにつっこまれ、由利香はぶつぶつ文句を言う。そりゃ別に淳のことは嫌いじゃないけどさ、っていうか普通に人間として好きだけどさ、別の誰かを好きになる権利だってあるんじゃないの?第一淳は保護者とか言って、てんで子供扱いしてるし。みんな勝手な事言ってるけど、淳にその気があるならもうとっくに何かあったはずだよね。二人っきりになるのなんてしょっちゅうなんだから。今だに雷鳴ると来てくれて、ずっと手にぎっててくれるしさ。一生このまま保護者と被保護者の関係でずーっとずーっと暮らしていく羽目になったら誰が責任とってくれんのよ。結婚もできないじゃない。子供5人生むのが夢なのにさ。ぶつぶつ 「何文句いってんの、ユカ。ほら着いたよ」  着いたところは、デパートって感じの7階建ての大きな店舗。『夏物総ざらえ』の看板が出ている。ぎりぎりセーフで間に合ったってところだ 「良かったねまだ売ってて」 「いいのは売れちゃってるかなあ」  なんて言いながら水着売り場に向かう。由利香はまだ、だいたい淳はいっつも私の事ばかにしすぎだよね、もうちょっと女の子として扱ってくれても…とか文句を呟いている。…それはお互い様のような気もするけどね  水着売り場はけっこう混んでいた。もう海のシーズンはとっくに終わったのだが 「ビキニビキニ〜」  花蘭はあくまでビキニにこだわって温を連れてそのコーナーに行ってしまう。 「ユカはどんなのが欲しいの?」  愛に聞かれて、思わず 「胸が小さくても似合うの」 とか言ってしまう。愛はくすっと笑って 「一緒に探そうか?」 と言ってくれる 「うんっ!ありがとラヴちゃん。かおちゃんも一緒に見よう」  3人は端から順番に水着を見ては批評する 「ユカ、普通サイズじゃ大きいよね。小柄だし」 「うん多分、胸が(←こだわる)」 「私は普通のワンピースがいいなあ。」 「かおちゃん何色が好き?」 「うーん、水着だったらオレンジ系かなあ…」  なんてほのぼのトークを続けていると、花蘭が飛んで来た 「見てみて、これ、アダルトでしょお」  見ると真っ黒でかなりぎりぎりなビキニ。胸元に真っ赤なキスマークが付いている。着てるのと、着てないのとどこがどう違うの?って世界だ。いやこれならいっそ何も着ないほうがやらしくないぞ。 「蘭ちゃんやりすぎ」 「まさか、買わないよ。すごいから見せにきただけよ」  またピュ―っといなくなる。 「あ、ラヴちゃんこれ似合うよ」  由利香が薄いピンクの水着を抜き出した。胸元とウエストの切り替えより少し下あたりにフリルがついていてちょっと短めのスカートみたいになっている。よく見ると地模様で花柄が入っていて、多分水に濡れると浮き出てきそうだ 「あ、似合う似合う」  馨も同意する。肌の白い愛は薄い色がよく似合い、日頃の私服もピンクや薄いクリームといった色が多い。 「試着しようかな?」 「しておいでよ」  ピンクの水着といっしょに愛が試着室に消える  と、同時にまた花蘭が走って来た 「見てみて」  今度は、ゴールドの水着を持ってきた。ひらひらとフリンジがついている 「リオのカーニバルみたい」  由利香の言葉に 「そうでしょ」 と一言残して、また戻って行く。なんだか、花蘭は今日は妙にテンションが高い。ダイエットでストレスでも溜まっているのだろうか。 「あ、かおちゃんこれ似合いそう」  由利香は、鮮やかなオレンジ地に白を中心とした淡い花柄が描かれた水着を手にした。片方の肩にだけついたリボンが可愛い 「私も着てみようかな?」 「うんうん」 と言うのと同時にまた花蘭がやってきた。今度は豹柄のビキニを持っている。っていうか、なんでそれ、しっぽがついてるんですか?本当に水着か? 「蘭ちゃん…マジメに見てる?」 「あはは。ユカは決まった?」 「ううん、まだ。これかなあ」  由利香は、大人しめのブルー系のチェックのワンピースを花蘭に見せた。 「ちっちっちっ!」  花蘭は長い指を左右に振る。由利香の持っている水着をうばい、ハンガーをもとに戻す 「ハワイよっハワイ。そんな地味なの着てどうすんの!?こっちおいで」  有無を言わさず別のコーナーに連れて行く 「蘭ちゃん私、ビキニは無理だよ」 「ビキニじゃないよ、もうちょっと露出が少ないやつね」  いわゆるセパレートタイプ。お腹がちょっと(?)見えるくらいのから、胸のすぐ下からお臍あたりまで見えるタイプまで色々揃っている。 「ユカはせっかく、細くてちっちゃくてカワイイ感じなんだから、こういうのがきっと似合うね。色も赤とか黄色とか元気な感じがきっと似合うよ。」 「えーお腹だすのお?」 「出すの。出した方がカワイイって絶対」  由利香は花蘭の差し出すセパレートの水着を見た。生地は赤がベースでところどころに薄く銀色の星の模様が浮いている。肩のストラップも銀色で襟ぐりには星の飾りがいくつか付いている。全体的にキラキラした感じだが、銀色が地味めなせいか、派手な印象は受けない。 「着…着てみよっかな」 「着て着て。カワイイよ、きっと」  水着を持って更衣室に入る。思えば水着なんて最近競泳用ばっかりだ。何年か前に亜佐美に流れるプールかなんかに遊びに連れて行ってもらうのに水着を買いに行った覚えはある。でもそんなのは子供用のうさぎさん柄とかの世界だ。大人用の水着売り場で水着を買うのは初めてで、ちょっとドキドキする。  着替えて、鏡に写る自分を見てみる 「似合う…かな?」  よくわからない。どうしようと思っていると、いきなり花蘭がカーテンめくってひょこっと顔を出した 「ぎやぁぁっ!蘭ちゃんふつーのぞくっ!?」 「いーじゃない、いっしょにお風呂とかにだって入った仲だよ。ユカすっごくカワイイそれ、それにしなね。ねえねえ温ちゃんみてみて」 と温を呼ぶ。すぐに温も顔をだした 「やっだーユカかっわいいー。すっごいいいよソレ。」 「え?そ…そかな」 「ユカ照れてる〜かわいいー。おミズに見せてあげたい〜。」 「きっと鼻血もんね」  どう返したらいいかわからないコメントを残して花蘭は消えた。 「なんか、今日蘭ちゃん面白いね」  温はそんな感想を言って、やっぱり消えた。  結局、由利香はそれを買う事にし、温は明るいグリーンとブルー系のチェックのビキニ、花蘭は黄色系の、胸の谷間と腰の両脇がリングでつながったかなり際どい感じのビキニを買った。やっぱり、ダイエットでどこか一本切れちゃったのかも知れない。 「帰ったらこれみんなで着て歩いて、オトコどもびっくりさせてやるね」 とか言ってるし。そりゃびっくりするわ。  お昼を食べて、たまにはいいよね、今度は絶対優子もひっぱって来ようね、なんて騒ぎながら帰途につく。なんだかんだ言ってちゃんと練習できる時間帯に帰るところがマジメだ。  女の子5人で歩いていると結構人目を引く。男の子達にナンパされたり、花蘭がモデルにならない?などと声をかけられたりもした。ばっかみたいねーときゃっきゃと騒いぎながら電車を降りて、駅から出たその時、由利香の肘が後ろからグイと強い力で引っ張られた。 「何すんのっ!」 と言いながら、掴まれた肘を斜め上に思い切り打ち付ける。みぞおちに入ったらしく、頭の上で男の『ぐぇ』という声がした。瞬間、掴む力が弱まったのを見計らって逆に手首をつかんで、素早く男の後ろに回りこみ、同時に膝の後ろあたりを蹴り上げて、膝をがくっとついたところを、つかんだ手首をしめあげる。この間わずか2,3秒。このクソ暑いのにきちんとスーツを着込んだ男が小柄な由利香に腕を締め上げられているのはなかなか見ものだ。 「ユカ強いねーあいかわらず」 パチパチと花蘭が手を叩く。 「なめんじゃないわよっ!何よいきなりっ!…って、なんだナッツじゃない」 顔を見て、由利香は脱力する。 ナッツこと木実(このみ)は実は狽フツートップと言われている。言われてるんだけど、真偽のほどは怪しい。淳とか純なんてモロに『あのヘタレ』ってよんでるし。もう一人は掛け値なく、トップなんだけど。じゃあワントップじゃん…。いや、多分ホントは強いんだ、きっと、多分、おそらく…  彼はちょっと事情があって時々Φの近辺をうろうろするハメになっている。その事情というのも… 「いたっ、いたたっ。ちょっと放してよ。痛いって」 「ああ、ごめんね」  由利香はぱっと手を放す。 「何しに来たのよ」 「何しにって…僕が君に会いにくる用事はいつもいっしょだろ」  立ち上がりながら膝の埃を払い落とし、乱れたスーツの衿をきちんと正して木実は由利香に言った 「お母様が、会いたがっておられます。いっしょにきていただけませんか?」
  
 

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