1.8.The Days of the Meets. 〜part11

 
 
   
 ビーチはそこそこ混んでいた。  すぐに、海辺で遊んでいる女の子達が見つかった。平和にみんなでビーチボールで遊んでいる。  ちょっと離れたところで見守る事にする。由宇也はしみじみと、 「やっぱ、可愛いなぁ、うちのユカ」 「なんだよ、うちのって。おまえ、カノジョは可愛くねえのかよ」 「優子は美人で、ユカは可愛い」 「あ…そ…」  白けて目をそらす。…そこで気が付いた。 「腹…減った」 「朝飯食ってないのか?」 「由宇也に起こされてそのまま来たじゃねえか。いつ食うんだよ」 「そう言やあそうか。なんか買って食え」 「金持って来てねえ」 「世話やけるな。ミネも大変だよなあ、いつもおまえなんかの面倒見て。ほら、あそこで買って来い」  由宇也は淳にポケットから財布を出して渡し、売店を指差した。  淳は嬉々として売店に向かい、ホットドッグを3本と、ポテトのLとコーラを2つ紙製のトレイに乗せて戻ってきた。 「そんなに食うのか。」 「食うよ。ゆうべ食うもんねえんだもんな。酒ばっかで」  コーラを1つ、由宇也に渡しながら、ホットドッグをぱくつく。 「何時まで飲んでたんだよ。」 「5時くらい。でもゆうべはそんなに飲んでねえ。なんか酔うと身の危険感じたから。ミネは?」 「見てねえな。寝てんじゃねえか。あ、そうだ、昨夜の集まりで、今夜のフェアウェルパーティーの式次第もらったぜ。見るか?」 「どっちでもいい」  大した興味がなさそうに答える淳に 「見ておいた方がいいぜ」  財布の中から小さく折りたたんだメモを出して渡す。  2つ目のホットドッグを食べながら目を通す。夕方の4時開始で、結果発表に引き続き、表彰の後、立食形式のパーティーに入る。ダンスの時間があったり、ビンゴゲームが行われたり、12時近くまで続く。 「で、アトラクションがあるんだ」 「へえ」 そういえば、『各国代表による国対抗美人コンテスト』と書いてある。ダニーが言ってた『ちょっと楽しい企画』ってこれか?なんかヤツらしくない気もするが… 「ベタだな。誰出るの?」 「まあ、一応、みんなで話し合って決めるけどさ。朝食のとき、聞いたらみんなの意見はだいたい一致してたぜ。昼に全員集って決める事になってる」 「ふうん…どうでもいいや。勝手に決めれば」 「いいんだな」  由宇也は念を押す。 「いいよ」  優子も愛もかなり美人だし、水着コンテストとかあるなら花蘭かな。温の長い黒髪ってのも、外国人の審査員にはアピール度が高い。馨は大人しめだけど、そういうのがいいってやつもいるから、まあ誰が出てもオッケーか?頭の中では最初から由利香は論外になっている。お子様大会じゃないんだし、由宇也が賛成するはずもない。 「あっ!あのやろーっ!」  ホットドッグを放り出して立ち上がる。 「あの、ガキ!ユカに声かけやがったっ!」   「なっにいっ!」  由宇也も立ち上がり、二人同時にそっちへ向かって走って行った。
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 昼食後、有矢氏の部屋にみんなで集って、今日の予定を立てることにする。多分最後のこの部屋でのミーティングだ。 「もう、由宇也も、おミズも過保護すぎね」  陰で見張っていた事がバレ、2人は女の子達から大顰蹙を買ってしまった。 「みんないっしょなんだから、心配しなくったっていいのに」 「べつに何も起こるはずないのにねー」  不満の嵐の中で、由宇也は聞かない振りをして、話を進める 「…で、朝言った、コンテストの件なんだけど」 「そんなの、決まってるわよね」 「ま、そうだよな」 「それしか、ねえな」  自分とは関係ないものとして、『だからあの水着、派手だって言ったんだよ』なんて考えながら真剣に話合いに参加していなかった淳は、なんだか嫌な予感がして、目を上げた。 視線が…自分に集っている気がする 「へっ!?な…なんで?おれ?」 「おミズ、よーく見たか?それ」  純が刷り上ってきたパンフレットを淳の前に差し出す。 「良くは見て…え?」  よく見ると、『女装美人コンテスト』と書いてある 「女…女装っ!?うそッ!?聞いてねえっ!」 「多数決とるぞ、おミズがいいと思う人、拍手」  全員が拍手をする。 「あーっ!ユカまで、何賛成してんだよっ!?おれ、そんな趣味ねえぞっ!」 「誰もないよ、そんなの」  武が冷静な意見を述べる。うんうんと皆うなずく。 「おまえ、さっき勝手に決めていいって言ったよなあ」 「あれは言葉の綾ってヤツでっ!いや、おれ、ほら、口悪ぃし、歩き方とかも乱暴だし」 「却下」 「で…でも、ほら服とかどーすんだ、おれのサイズの女物の服なんて…」  その時ノックの音がした。  由宇也が出ると、ホテルのメッセンジャーボーイが、赤いバラの花束と大きな箱を持って立っていた。 「こちら日本支部の方々ですよね。今日のパーティーの実行委員長様から、水木淳様にプレゼントです。是非、今日のコンテストに役立てて欲しいとの事でした」 「ひえっ…」  淳が思わず悲鳴に似た、引きつった声を上げる。 「ほら、おまえにだぞ、おミズ」  由宇也が淳に、花束と箱を渡す 「なんでおれが出る事になるって決め付けてんだよ、あいつはっ!」  恐る恐る箱を開けると真っ赤なシルクのロングドレスとハイヒール。胸のあたりはドレープでカバーしているが背中がウエストのあたりまでかなり大きく開いている。 「うわー、すっげー」 「気の毒に…」 「楽しみ〜」 「淳っ!大丈夫っ!?」  由利香が固まった淳の目の前で手を振る。 「…意識飛んでた…。こ…っこれ、おれ着んの?」 「おまえぐらいしか着られねえだろ」 「おれが着られる根拠はっ!」 「顔と体形」  またも武に平然と言われる。 「尚だって同じだろ!」 「いや、おまえのほうが多分ウエスト3センチは細い」 「知らねえよっ、そんなんっ!そ…それにっ、せ…背中っ!おれすっげー傷がっ」  確かに淳は左の肩甲骨辺りに、かなり人目をひく大きな傷がある。 「いやそういうのも色っぽいって」 「ノリ!なに言ってんだよ!」 「大丈夫、メイクで隠せるね。どうせおミズ、今痣だらけでしょ。どっちにしても隠さないとね」 「あと…、ヒール、ヒールの靴無理っ!ぜってーこける!歩けねえっ!」  淳は7,8センチはヒールのありそうな靴を恐ろしそうに見る。 「おれ、エスコートして支えてやるよ」  一日休んで背中の痛みから解放された千広が嬉しそう。そりゃ彼は190以上あるから、それなりにバランスがいい。 「ヒロ…嬉しくねえ…」  こっちはとっても悲しそう。 「180欲しいって言ってたからちょうどいいじゃん。ヒールで超えるぞ。ヒロはおまえ庇って怪我したんだから、そのくらいさせてやれよ」 「ミネまでぇぇっ!」 「まあ諦めろ、全体の総意だ。おまえはっきり言って、あれこれ迷惑かけまくりだったんだから、最後くらいみんなにサービスしろ」  この乗の言葉が実質上最終決定となった。それより、『サービス』なんだろうか? 「おまえに選択の余地はない。ミネと由宇也と尚、着替えさせろ。着替えたら花蘭たち、メイクしてやってくれ」 「わーい、淳のお化粧〜」 「…たのむからユカ喜ぶなって」 「えーきっと、きれいになるよ、ね?」 「ね?って言われても」  まだ未練がましく文句を言いながら暴れる淳を、3人がかりで別室に連れて行く。 「うわー、ぎゃーやめろーばか」 「おとなしくしろよ、服破れるぞ」 「破いてやる」 「ああ、そういうのもいいかもな。襲われた美女…」 「尚っ、てめー、なんかストレスたまってんのかよっ!」  こっちの部屋では女の子達が盛り上がっている 「おミズの足、細いけど筋肉質だよね。ちょっと色気に欠けない?」 「ストッキングはけばいいね。黒のレースとかの」 「う〜ん、サイズあるかなあ」 「あ、ほらガーターベルトで吊るのがいいよ。長さ調節できるでしょ」 「あーあれ色っぽいよね」 「よしっ買いに行こうっ、ユカ行こう」 「うん」  由利香と温が素早く買い物に立つ。 「ルージュはやっぱり赤だよね」 「つけまつげどうする?」 「多分ビューラーだけで平気ね。おミズまつげ長いから」  ほとんどおもちゃ扱いだ。  ここまでくるとちょっと男共は引き気味。少しだけ淳に同情し掛ける。  …がそんな気持ちも、むりやり着替えさせられた淳が出て来ると吹っ飛んだ。思わずみんな息を呑む。  細身の体に、深いスリットからのぞくスラッとした脚。そっちの趣味がなくても、くらっときそうだ。 「すっげー、コワイくらい似合う…」  みんな呆然として目が離せなくなってしまう。  花蘭が上から下まで品定めをするような目で見回す。 「サイズ、少し大きいね。あとで詰めてあげる。ほんとうはヒップパッドとかするともっと色っぽくなるけどね。ニッパーで、ウエストもうちょっと絞って、ちょっと胸も入れる?」  「イラねえよっ」 「あー喋ると台無し」  健範ががっくりしたように呟いた。そこへ、温と由利香が買い物を終えて帰ってくる。 「たっだいまあ、きゃあっおミズ、キレイっ!はいこれ」 「なに、これ」  おそるおそる袋を開ける。赤のガーターベルトに黒のバラの柄のレースのストッキング。 「これ…おれ付けんの?」 「だって、生足ってわけにもいかないでしょ?つけ方知ってるよね」 「…悲しいけど知ってる」  高1男子は、普通はそんなもの知らない。  ここに至って、やっとなにかが淳の中で吹っ切れた。拳を固めて立ち上がり、 「くっそおおおっ!こうなったら、ぜってえ1位になってやるっ!」 「いいけど、あんま足広げると、破れるぞスリット」 「歩き方も気をつけてねー」 「あーばかっ、そこでやるな!」  その場でスカート捲り上げてストッキングを履こうとした淳を止めて、純が、別室に押し込む。 「ったく、あいつは、恥ってもんがないのか」 「しかし、時々あいつ男にしとくのもったいねえよなあ。」 「女にしとくのも惜しいけどな。」 「ミネ、いいの、おれがエスコートしちまって」 「え?…なんだ、それ。」 「いや、おミズはミネの方がいいのかと」 「やめてくれよ。少なくともおれはやだ」   淳がガーターベルトをつけて出てきた 「なあ、ここにさ、バラの花とかつけると色っぽくねえ?」 と、腿あたりでストッキングを止めているベルトの留め金を指す。花蘭が相槌を打つ。 「ああ、それ、いいね。なにか考える」 「やっぱ、イヤリングとかもあったほうがいいよな。あとさ、後ろに長く垂れるネックレスとかあるじゃん、あれもいいいよな。あ、手の辺寂しいから、ブレスつけて、出来ればそこにもバラを…」  次々と案を出す淳をみんな呆れて見つめる。ちょっと前まであんなに嫌がってたくせに、こいつは…  「ナニ?」 「いや…いいけどさ、おまえ、クセになるなよ、そういうの。友達やめるぞ、おれ」 「え?やっ、やだなー、ミネ。なるわけねーじゃん」 「どーだか」  純は怪しむように淳を見る。 「ぜってー、ならねええっ!なってたまるかっ!」 「おミズ、とにかくあんまり喋んな。全部ぶち壊しになる…」  由宇也がため息をつく。
  
 

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