1.9.She Starts Her Junior High Life. 〜part4

 
 
  
        
「淳っ、あのねっ!」  またも元気に駆け込んでくる由利香。よくも毎日事件が起きて、よくも毎日興奮して帰ってこられると思う。  そんなに楽しいか…中学校…。ため息混じりに言葉を返す淳の頭の中は、サンドイッチでいっぱい。 「今度は何だよ」 「デートに誘われた」 「…は…?」  思わず目が点になる。デート?でーと?でえと?とりあえず、聞き返す 「誰が?」 「私」 「……誰に?」 「香野くんって同じクラスの子」  同じクラスって言ったら、中2だ。なんかむかつく。 「最近のがきゃあ、転校して3日目の転校生を、もうデートに誘うのかよ。なっまいきー」 「委員長だから、私がクラスに馴染むように気を使ってくれるみたいだよ」 「…ありえねー」 「はい?」 「クラスに馴染むようにデートに誘うなんて、ぜーーーーってえありえねえっつてんだよ。」 「そお?」  由利香は首をかしげて淳を見る。 「そおだよ。で?約束してきたのかよ。」 「ううん」  由利香は首をかしげたままで、左右に振る 「淳と相談して決めようと思って」  それは、嬉しいような、嬉しくないような。いや嬉しくないか、やっぱり 「勝手にすれば」 「え〜っ?」 「え〜っ?じゃ、ねえ。だいたいおかしいだろ。おれに相談するの。普通はそういうの仲のいい友達とかに相談すんじゃねえの」 「だから、相談してんじゃん」 「は?」 「淳でしょ、私の一番仲のいい友達って」 「……え?…あ、そ…そうなんだ」 「えー淳は違うの?」 「え?ええと…そうなのか?」 「違うんだ−えーちょっとショック」 「ええと、ちょっと待って…」  頭の中を整理しようと、淳は目を閉じて考える。 友達だったんだ…おれって。ま、友達っていやぁ、Φの連中はみんな友達だしな。確かにいっしょにいる時間も長いし、お互い の事けっこうわかってる(つもり)だし…。友達だったら止める理由なんてなくて、降ってわいたような恋愛話を、応援してやるのが筋ってものだ。今さら男女間の友情は成り立たないだのなんだの、妙な事言い出す気はないし。由利香が友達って言うなら、賛成するしかないよな、なんか…ちょっと、いや、かなりひっかかるけど。  なんだかなあと思いつつ目を開けると、こっちを見ている由利香と目が合う。仕方がない。ちょっと話聞いてやるか。 「で、どこ行くんだよ、デート」 「映画」 「あっぶねー」 「なんでよ」 「映画館って言ったら、暗くて、密室で、身動きとれねえって3拍子そろってるだろが。下心あんじゃねえのやっぱ」 「みんなが淳と同じ訳じゃないと思うんだけど」 「どーゆー意味だよ。おれはそんな七面倒くせえことしねえよ、いちいち」 「そっか」  由利香は由利香で、淳が止めれば行かないのにという気持ち。どっちかというと、あまり気は進まない。もう一組の同じクラス の男の子と女の子は、真知子曰く『一年の時からつき合ってて、ラブラブ』だそうだし。でも、中学生でつき合っててラブラブっ て、一体どんな状況なんだろう。興味はあるけどいっしょに行くのはなんか不安だ なのに、軽い感じ(に聞こえる)で 「ま、行って来れば」 なんて淳は言うし。 「あ、そ、…じゃ行って来る。初めてだよねーデートって。楽しみ」  仕方なくそう答えてはみたものの、なんかあまり楽しみに聞こえない。  淳は淳で、まるでそんなことどうでもいいと言いたげに 「なんでもいいからさ、夕飯食おうぜ。今日ユカの好きな鶏の立田揚げ」 「待っててくれたの?」 「待ってなんかねえよ。バタバタしてて遅くなっただけ。早く着替えて来いよ」 「わかったっ!待っててね」  こっちの方がデートの話した時より嬉しそうだ。  急いでカバンをつかんで、部屋に走…りかけたところで、いつものようにサンプル前でしゃがみこんでいる健範と歴史にけつず まづいて勢いよくこけた。体が宙に浮く 「きややややあっ」 「おわっ!…と、ユカ何急いでんだよ」  カバンは3mくらいはるか彼方に飛んで行き、由利香は思いっきりベタっとうつぶせに倒れこむ 「いたあああいっ」 「こっちだって、いてえよ…つうか、ユカ、見えてる…うさぎさんのワンポイント…」 「ばっ…ばっかああっ!、ノリのえっちいぃぃっ!」  あわてて、おき上がってめくれあがったスカートを直し、健範に一発平手打ちをお見舞いしてから走り去る  健範って最近こんなんばっか… 「ノリ、いたそ…」 「なんでだよーっ!チルだって見たよなっ!なっ!」 「ぼくは、うさぎさんまでは…。ノリみたいにしげしげ見ないもん」 「いや、だって、うさぎが、にんじんくわえて…」 「うさぎが…どーしたって?」  すぐ後ろで聞こえた声に、びくっとして振り向く  案の定、腕組みをして仁王立ちになった淳が立っている。 「お…おミズ。背中に何かしょってる…?蛇っ!?龍っ!?サラマンダ−っ!?」 「…てめえ、何見たって?」 「すいませんゆるしてくださいっ!」  思わず土下座して謝ってから、なんでおれがこいつに謝ってんだと思う  …でも言えないけど 淳は、健範をもう一睨みし、中指で健範の額を弾く。いわゆるでこピンだ。パンっという小気味いい音が響いた。  健範にとっては、小気味よくもなんともない。 「いっでええ」  淳は健範に一瞥もくれないで、二人分の食事を取りに行ってしまう。健範は額を両手で押さえ、涙目で、淳の背中を睨みつける 「ユカがスカートはいてこけたら、その場から逃げろって事だね」  歴史はしみじみ呟く。 「左手っ!左手だったぞ今っ!下手すると、頭蓋骨凹むぞ!おれ、そんな悪い事したのかっ!」  ゆっくりと額を押さえていた両手を放す。歴史がのぞきこむと直径1センチくらいの丸い赤い痕が残っている。かなり痛そうだ。 「なんか虫のいどころ悪いんじゃないのお?そのくらいですんで良かったよ」 「あああ〜うさぎがあ…」 「頭割られるよ」

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  次の日本当に淳はいつもより早起きして、食堂の厨房に入り込んだ。まだおばちゃんたちは来ていない。  『ええと…何だっけ?』  とりあえず卵を茹でていると、早出のおばちゃん第一号がやって来た  淳をみると怪訝そうな顔で 「今度は何始めたの?」 と言う。 「え?あのーサンドイッチ作ろうかなって…」 「あらーユカちゃんにお弁当?」 「なっ…何でっ!?わかっ…」 「あら、当たった?冗談だったのにさ」 「うげ」  おばちゃんたちには敵わない。  おばちゃんは笑いながら、てきぱきと仕事の準備にかかる。白い割烹着を素早く身につけ、三角巾をきゅっと締める。お米を研 いで、味噌汁の出汁をとって、お湯を沸かす。その鮮やかな身のこなしに思わず見とれてしまう。おばちゃんは、自分の方を見て いる淳に気がつくと、 「そこ使ってていいよ。そこなら邪魔にならないからさ」 と、優しい笑顔を向けた 「あーうん。おばちゃんカッコいーねー」 「何言ってんの。」  おばちゃんは、あっはっはと豪快に笑って、淳の肩をポンと叩く 「たらたら卵茹でてると黒くなっちゃうよ!」 「うそっ!なんで」 「卵はね茹ですぎると、黄身と白身の境目が黒くなっちゃうの。2酸化イオウができてね。料理は科学だよ」  言いながらつかつかと近寄ってきて、ガスの火を止める。 「そのまま冷ましておくとね、殻が剥きやすくなるの」 「え?なんで」  料理ってわからないことだらけだ。思わず、なんでを連発してしまい、5歳児かよ、と自分で苦笑する。 「こっちはなんでだか知らないけどね。なんでだかなるのよ。料理は、科学と経験だからね。急ぐ時は熱いまま剥くといいけど、火傷してあぶないからね。あと何はさむの?バター柔らかくしてある?」  なっているわけもない 「作ってあげようか?大変そうだね。おばちゃんなら、ちょちょいだよ」 「いい。おれが作るって言ったから作る」 「そ。ま、がんばんなね」  おばちゃんは、朝食の方の準備に戻って行った。洋食用のスープ用にキャベツをざく切りにし、ソーセージと一緒に鍋に入れ火 にかける。沸いたお湯を大型のポットに分けて注ぎ入れる。 その間に淳はどうにかきゅうりを切り終えた。次はバターをパンに塗ろうと取り上げる。まだ硬いけれどまあいいか。バタ ーナイフでバターを掬い上げ、パンに塗りつける… 「ぎやああああっ!」 「どうしたの?」  淳の悲鳴におばちゃんが心配して走り寄って来た。淳の手にしているパンを見て笑い出す。硬いバターを無理やり塗りつけようとしたので、ぼろぼろになっている 「う゛〜」 「あのね、バター湯煎してちょっと柔らかくしてから」 「ゆ…ゆせんっ!それどっかで聞いた気が…」  淳のメモリーからは武が懇切丁寧に説明してくれた、湯煎に関する説明はすっぽりきれいに消え去っている。 「むりよねえ。どこか小さい容器に入れて、バターナイフで混ぜれば少しは早く柔らかくなるから」  おばちゃんの渡してくれた小さいボールにバターを入れ、ナイフで混ぜる。機械的にナイフでかき回していると、なんだか訳もなく悲しくなってくる。 「おれ、なんでこんな事してんだろ」  思わず愚痴ると、 「やるって言ったんだから頑張りなね。約束したんでしょ」  おばちゃんに叱咤激励されつつ柔らかくなったバターをパンに塗りつける。ぺタぺタ。ぺタぺタ 真剣な顔でバターを塗っていると他のおばちゃんたちがやってくる。誰も淳を見ると怪訝そうな顔になり、最初にきたおばちゃんがそのたびに『ユカちゃんにお弁当作ってあげるんだって』と説明し『あらあらあ』と笑顔になる。すでに淳に言い返す気力は残ってなく、頭の中は次の手順でいっぱいだ。あとはハムときゅうりをはさんで、チーズはさんで… 「カワイイ事するわねえ」 「ユカちゃんも幸せよねえ」  食堂の厨房はいつになくほのぼのムードに包まれている。若いっていいわねえ…みたいな  …が、当の本人はほのぼのどころではない。時計を見ると 「ぎえええええっ、ミーティングまであと30分〜。間にあわねええ」  そのとき、ふと傍らを見ると鍋の中にゆで卵が… 「ああああっ!卵はさんでねええっ!!」 「にぎやかねえ」  おばちゃんたちは、にこにこと微笑み合う。

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「なんであいつは、ミーティングにいないんだ」 朝7時。また淳だけがいない。 「今日見てねえよな」 「そう言えば」  皆口々に言い合う。朝起きてからミーティングまでの間に、たいてい皆誰かに目撃されている。淳は走ってることが多いけど。  まさか、たかがサンドイッチ作りにそんなに四苦八苦しているとは思いもよらない。 「まいいか、いつもの事だし」   確かに淳がミーティングサボるのはいつもの事だ。誰もそれほど気にも留めず、今日の予定を確認しあう。 大会も終わったばかりなので、とりあえず今は落としている単位をどうにかするのが当面の目標。一年のうちでほんのわずかだ けある学習強調週間が年内くらいは続く。 「各自落としている単位を確認して、今年中に目星をつけること。いつまでも積んでおかないように」  有矢氏の言葉に、皆、げーとかうへーとか嫌々同意(?)の声を上げる。 Φでは基本的に落第はない。されても困るしね。その代わり、テストの点が悪かったら、追試もしくはレポートなどで、とにかく合格するまでとことん追いかけられる。それを出さないと、次々にそれは累積されていく。それを称して『積む』という。 あとは本人の問題で、累積されていっても平気と考えるか、やってしまってすっきりした方がいいと考えるかだ。普通後者のように考えて真面目に課題をこなし、先にどんどん進んでいる場合の方が多い。物理や化学は実験を重ねてレポート提出して合格すれば先に進めるし、数学も規定の問題をこなせれば先に進める。社会科系も基本的にはレポートだ。 英語だけは、前にも説明したようにある程度授業に出ないと単位にはならないのがちょっと辛い。 「峰岡、言っとけよ水木に」 「またおれ?おれ、おミズのお守り役じゃないんだけど」 「おまえの言う事くらいしか、あいつはマトモに聞かないだろ。」 「おれの言う事も、まともに聞いてるとは思えませんけどね」  言いながら純は、淳はの単位積んでたっけと考える。この間実験失敗してたから、たぶん化学。絶対マジメにやっていないはずの国語。不器用だから、技術科、社会科のうちいくつか。あと… 「あいつ、音楽の追試受けてないんだ。西滝先生困ってた。」  何しろ楽譜を読めない淳は当然のようにテストの点は悪い。音楽担当の若い女性教師西滝桃果、通称『ももちゃん』は、親切にも、追試は実技でもいいと言ってくれたのだがそれにも現れなかったというわけだ。それを聞いて男子たちが騒ぎ出す。 「うっそー」 「大ヒンシュク」 西滝桃果は、雰囲気が柔らかく、ついでに言えば、小柄だけど出るべきところは出ている、いわゆる『トランジスタグラマー』ってやつだ。当然男の子達の間で人気は高い。それで、普通は音楽なんて好きじゃない男の子達が、こぞって選択しているわけだ。その彼女のせっかくの好意を受けないなんて、なんてヤツ…。最低、人非人、極悪非道。この時とばかり罵詈雑言が飛び交う。そこまで言われなくちゃならない程、悪い事してるのか? 陰でそんな悪口を言われているなんて、これっぽっちも知らない淳のサンドイッチ作りは、その頃やっとゴール間近になっていた。とりあえず全部具をはさみ終えて、あとは切るばかり。緊張して包丁をハムサンドに下ろす… 「…っ!」  淳の息を呑む気配に、おばちゃんの一人が 「どうしたの?」 と声をかける。淳の手元をみるとはさんだパンと具がずれて、ぐちゃぐちゃになってしまっている。 「なんでっ!」  今日おそらく10回目以上になる『なんで』を口にするとおばちゃんは 「あー包丁引いちゃったのねー。上から押さえ込むようにして、どっちかっていうと押し気味にしないと駄目よ」 と教えてくれた。教わったとおりにやってみる…なんとか切れた。しかし同じように卵サンドを切ってみると、こんどは中身が思いっきりはみ出す。 「卵は、もうちょっと力抜いて、力を加減しながら…」  呆然と卵サンド『になるはずだったもの』を見下ろす淳に、おばちゃんがとってもできそうもないアドバイスをくれる。 「加減っつったってさあ…」  声が涙声になるのが自分でわかる。 不器用な上に、左利きなのに包丁が片刃の右利き用しかなく、左で切っても右で切ってもうまくいかない。指切るたびにおばちゃんのうちの誰かが絆創膏を貼ってくれて、両手の指は絆創膏だらけ。左利きは器用な人が多いなんて誰が言ったんだっけ?ついでに言うと左利きは絵が上手いとかいうのにもあてはまらない。  すでに使った食パンは5斤になり、どうやら2斤ぶんくらいがサンドイッチらしくなった。何を3斤分も失敗したかは、聞かないで欲しい。世の中予想を超える出来事が起きることも、時にはあるってこと。とにかく今、淳の目の前には失敗したサンドイッチ用パンの残骸だの、ハムの切れ端だの、砕け散ったきゅうりだのが死屍累々と積み重なっている。 「パンの耳…切るの?」  おばちゃんが恐る恐る尋ねる。最初は微笑ましく見ていたおばちゃんたちだが、ここに至ってさすがに少し危機感が出てきたようだ。淳はゆっくりと振り向きながら 「え?」  と聞き返し、朦朧とした頭で考える。パンの耳…って何だっけ…。パンって音聞こえるんだぁ…(←違う) 「ごめんね、今の忘れて」  淳の様子に、どう考えてもそんな事無理だとおばちゃんはとっさに悟り、あわてて取り消した。 「それにしても、真剣な顔だねえ。惚れ直しちゃうよ」 「ありがとう」  聞いているのかいないのか、淳は別のおばちゃんの軽口を受け流し、確かにいつもの10倍は真剣な顔でサンドイッチに向かう。  そんな事をしている間に、食堂の方には人が集まり出す。厨房に淳がいるのを見るとぎょっとして、 「まさか朝飯作ったの、そいつじゃねえよな」 とか、 「きゃああっ水木くんが作ったんならお代わりするっ」 とか。淳の耳には届いていない。…それどころじゃない 厨房に入って約3時間半 「…で…できた…」 サンドイッチの包みを前に、淳はその場に座り込んだ。おばちゃんたちから 「おめでとー」 「よくがんばったねー」 と拍手がおこる。とりあえず一時的に配膳はそっちのけだ。  何事かとみんなの視線が集る。 「…まさか、ずっとサンドイッチ作ってたのか…」  由宇也が厨房を覗き込み、床に座り込んでいる淳に呆れて 「ばっかか…おまえ…」  その声に淳が目を上げて、由宇也と目が合う 「あ、おはよ、由宇也」 「おはよじゃねえよ。ほんっと馬鹿だな、おまえ」  それだけ言って、スタスタ行ってしまう。その後に優子が顔を出す 「おミズすごいわ、ホントに作ったの」 「えらいっしょ、おれ」 「えらい、えらい」 「なのに由宇也のやつ、馬鹿ですませんだぜ。ひっでーよな」  言いながら床から立ち上がる。大きく伸びをしながら 「あーつっかれた。おれも朝飯食おうっと」 「お疲れ様」  おばちゃんたちが口々に声をかける。 「あとは片付けといてあげるから」 「ゆっくり朝ごはん食べなね」 「片付けるよ。そのままにしといてくれる。先になんか食わせて。」 「これどうするの?」  おばちゃんの一人が、失敗したサンドイッチになるべきだったパンと具の山を指差した  食パン4斤以上、卵約1パック、ハム500グラム、チーズ2ポンド近く、レタス2個分、大量のきゅうり… 「食うよ。昼に」  そんなに食うのか、いくらなんでもちょっと無理だと思う。 「でも朝はもうパンは見たくねえ」 げっそりした顔で、パンの山を見渡す。自分でも、何故こんなに失敗の部分が多いのか、全然納得できないけれど、これが淳の料理の腕前の現実だ。 「淳、おはよーっ!」 制服に着替えた由利香が顔を出す。反射的に体が動いて、由利香の目から残骸が見えないような位置に移動する。失敗を隠そうとするところは、けっこうかわいげがあるかも…。おばちゃんたちがくすくす笑っている。 「作ったよ、サンドイッチ」 「うそっ。ホントっ!?」  由利香の顔がパッと明るく輝いた。 「ほら」  淳が包みを差し出した。どこで手に入れたんだ、その可愛いピンクに白の子猫ちゃん柄のクロスは… 「やーだ、嬉しい、嬉しい、嬉しいっっっ!」  小躍りしそうになりながら、由利香は配膳口越しに包みを受け取る。その様子を見て淳は、 「…ユカもしかして本気にしてなかったのかよ」  と訝る。 「え?や…やだなーそんなことないよー。信じてるって。それより朝ごはん食べよ朝ごはん」 「なんか怪しいなおまえ」 「いーからいーからー」 
  
 

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